最後の記憶
渋谷奈奈実さん 21歳 (近畿大法学部4年)
■11月の書き出し
毎日カレンダーに×印をつける者がいる。誰のしわざか見当がついたので、その意味を聞いてみることにした。
「美咲、お前だろう? どうしてカレンダーに毎日×を付けるんだ?」
「どうしてって…パパ…」
美咲は私から逃げるようにリビングへ行き、ソファでくつろいでいた香奈恵の隣へ座った。香奈恵はこちらをちらりと振り向き私とは目を合わさずに美咲の頭を撫でた。
私はもう一度カレンダーを眺めた。今日は10月10日。昨日の9日まで全て×印がついていて、12日の日曜日には赤いペンで○印が書いてある。
12日の日曜日は何かの記念日だったのだろうか? 美咲の誕生日か、はたまた香奈恵との何年目かの結婚記念日か。さっぱり思い出せない。
しばらくして美咲が自室へ戻った後、香奈恵と二人でコーヒーを飲みながら私は思い出せない記憶について考えていた。香奈恵ととりとめのない会話をしながら、素直に聞けばいいものの何故だか聞けずにいた。というのも香奈恵がそれを拒む空気を出していたのだ。
何も思い出せず、二人にも何も聞けないまま12日を迎えてしまった。念のため何かの記念日だと色々と困るのでインターネットで花束を注文しておいた。夕食の頃には届くだろう。
このままではいけない。何故だろう? 忘れてはいけないことを忘れているような気がした。記念日などではない。
「香奈恵、教えてくれないか。今日は何の日なんだ? どうしても思い出せないんだよ。美咲の誕生日は12月だったよな?」
「あなた…。そうね、今日のことはプログラムには記録されていないものね…」
プログラム? 何の話だ?
「落ち着いて聞いてね。あなたはロボットなの。美咲が3歳の誕生日に病気で死んだ父親の代わりに私が買ったのよ。こんなこと、本人に話しちゃいけない禁止事項なんだけど、今日はあなたの……あなた!? あなた!?」
美咲が階段を駆け下りてくる。
「パパ!?」
「美咲…パパはもう動かないわ。保証書に書いてあった時間よりも少し早かったみたい…」
美咲が泣き崩れているとインターホンがなった。香奈恵が大きな花束とメッセージカードを持ってリビングに戻って来た。その手からカードがこぼれ落ちた。
『香奈恵と美咲へ。ずっと見守っているよ。愛している』
[2008年11月17日掲載]
「パパ」の正体を娘に隠しておくのはよくある話ですが、「パパ」自身に対して秘密になっていたんですね。「念のため…花束を注文しておいた」というさりげない一文が、最後にこんなに効いてくるとは思いませんでした。

高須 萌衣さん 12歳(東大阪市立加納小学校6年)
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