いっしょに小説を書きませんか?

私が考えた「ちょっと不思議な書き出し」に続けて、あなたの想像の翼を広げてみてください。

内容はまったくの自由。純文学でも、ミステリーでも、恋愛小説でも、SFでも、ファンタジーでも、怪談でも、童話でも、時代小説でも、何でもかまいません。思いついたままに物語を展開させればいいのです。お気に入りの作家を気取るのも楽しいでしょう。
 かぎられた枚数ではありますが、その中で人類を滅ぼすことも、命懸けの恋をすることもできます。あなたの小説を何十万もの人が読んで、泣いたり笑ったり怖がったりしてくれるかもしれません。

「小説なんか書いたこともない」という方も、どうか気軽にチャレンジしてみてください。世界を見る目が変わりますよ。

バトンを託した私が、「こんな小説になるとは!」と驚くような作品をお待ちしています。

[有栖川有栖]

■募集中の書き出し■

【1月の書き出し】(締切:12月20日)

色々な土地で、色々なホテルや旅館に泊まったことがある。しかし、こんな宿は生まれて初めてだ。

【12月の書き出し】(締切:11月20日)

道ばたで口をぽかんと開け、空を見上げている人がいた。視線の先を追っても、変わったものはない。

応募方法はこちら



最後の記憶

入選作品渋谷奈奈実さん 21歳 (近畿大法学部4年)

■11月の書き出し
 毎日カレンダーに×印をつける者がいる。誰のしわざか見当がついたので、その意味を聞いてみることにした。

「美咲、お前だろう? どうしてカレンダーに毎日×を付けるんだ?」
「どうしてって…パパ…」
 美咲は私から逃げるようにリビングへ行き、ソファでくつろいでいた香奈恵の隣へ座った。香奈恵はこちらをちらりと振り向き私とは目を合わさずに美咲の頭を撫でた。
 私はもう一度カレンダーを眺めた。今日は10月10日。昨日の9日まで全て×印がついていて、12日の日曜日には赤いペンで○印が書いてある。
 12日の日曜日は何かの記念日だったのだろうか? 美咲の誕生日か、はたまた香奈恵との何年目かの結婚記念日か。さっぱり思い出せない。
 しばらくして美咲が自室へ戻った後、香奈恵と二人でコーヒーを飲みながら私は思い出せない記憶について考えていた。香奈恵ととりとめのない会話をしながら、素直に聞けばいいものの何故だか聞けずにいた。というのも香奈恵がそれを拒む空気を出していたのだ。
 何も思い出せず、二人にも何も聞けないまま12日を迎えてしまった。念のため何かの記念日だと色々と困るのでインターネットで花束を注文しておいた。夕食の頃には届くだろう。
 このままではいけない。何故だろう? 忘れてはいけないことを忘れているような気がした。記念日などではない。
「香奈恵、教えてくれないか。今日は何の日なんだ? どうしても思い出せないんだよ。美咲の誕生日は12月だったよな?」
「あなた…。そうね、今日のことはプログラムには記録されていないものね…」
 プログラム? 何の話だ?
「落ち着いて聞いてね。あなたはロボットなの。美咲が3歳の誕生日に病気で死んだ父親の代わりに私が買ったのよ。こんなこと、本人に話しちゃいけない禁止事項なんだけど、今日はあなたの……あなた!? あなた!?」
 美咲が階段を駆け下りてくる。
「パパ!?」
「美咲…パパはもう動かないわ。保証書に書いてあった時間よりも少し早かったみたい…」
 美咲が泣き崩れているとインターホンがなった。香奈恵が大きな花束とメッセージカードを持ってリビングに戻って来た。その手からカードがこぼれ落ちた。
『香奈恵と美咲へ。ずっと見守っているよ。愛している』

[2008年11月17日掲載]

Alicekara_1 「パパ」の正体を娘に隠しておくのはよくある話ですが、「パパ」自身に対して秘密になっていたんですね。「念のため…花束を注文しておいた」というさりげない一文が、最後にこんなに効いてくるとは思いませんでした。

'08年11月「毎日カレンダーに×印を…」

秘密

入選作品塚田晃子さん 23歳 (東京都足立区)

■11月の書き出し
  毎日カレンダーに×印をつける者がいる。誰のしわざか見当がついたので、その意味を聞いてみることにした。
 
鏡に向かって髪を梳(す)かしながら、さり気なく尋ねる。
「あれ、一体なに?」
 彼は口を開かず、鏡の向こうで微(かす)かに笑った。秘密、という訳か。
 黙った私に、良いことだよ、とだけ彼は言った。噛(か)み締めるかの様な呟(つぶや)きは気になったが、私はそれ以上追及できなかった。
 誰にでも、秘密はあるものだ。汚くて見られたくない秘密もあるだろうし、あるいは逆に、ぴかぴかと光った、自分だけの宝物にしておきたい秘密もあるだろう。丁寧に書かれた直線たちを見ると、彼のそれは後者であるような気がした。だとすれば尚更、私が触れて良いものではないのだ。
 もちろん彼のその秘密について、興味がないわけではなかった。私と彼は今まで常に一緒にいて、どんな秘密も、お互い見せ合ってきたのだから。
 ただ、その頃私は、新しく出来た友人たちと付き合うことに精一杯だった。以前のように閉じこもって、私のことを何でも知っている昔からの友人としか話さずに過ごすことは、最早できなかった。私の殻の外側では、容赦なく時間は流れていて、私もいわゆる大人にならざるを得なかったのだ。
 一日が終わる時に書かれるらしいカレンダーの×印はそれからも毎日続き、私も意識しなくなった。
 そして、その日はやってきた。
 私はいつもの様に、煩雑で卑劣で浅薄で、理不尽で不平等な外の世界へ出かけていくために、身支度を整えていた。憂鬱(ゆううつ)でため息を吐いたが、窓から外を覗(のぞ)くと、街路樹の黄色く色づいた葉がおいでおいでをするように風に揺れている。私が秋という季節を好きだと知っていてやっているみたいだと思って少し笑った。
「ね、そう思わない?」
 私は外を見ながら、彼に話しかけた。
 しかし返事がなかった。そしてどこにも気配がない。
 私は不安を感じて、カレンダーを見に行った。やはり、と言うべきか、数日前から×印が途切れていた。
 そうして私は、彼の秘密の意味を、理解した。
 彼が一緒に歩いてくれた×印の先の、日付しか書かれていない、カレンダー何百枚もの未来に、押し潰(つぶ)されそうな気分がした。
 これから、大人になった私は、一人で生きることを覚えなくてはいけない。良いことだよ、と彼は言っていた。確かに、確かにそうだろう。いつまでも子どもではいられないのだ。
 今だけだから、と最早誰も聞く者のない言い訳をしながら私は、彼のいた過去と孤独な未来を抱いて、ほんの少しだけ泣いた。

[2008年11月10日掲載]

Alicekara_1 今月の1本目は、とてもストレートな小説です。若さからくる怒りといらだち、不安と憂鬱、そして希望と痛みをちゃんと言葉にしています。考えて、言葉にする。それができないとき、人はよけいに苦しむのでしょう。

'08年11月「毎日カレンダーに×印を…」

選考を終えて(10月)

 ワープロで打てる文字や記号だけでなく、フリーハンドの図形や絵が使えたらもっとバラエティ豊かな暗号が集まったでしょうね。それでも皆さん、がんばって工夫をしてくれて、そこから生まれた物語も多彩でした。

 今回の佳作は四編。

 「中身より見た目」は、暗号そのものは出てこず、用紙がもっと不思議だった、という発想に感心しました。うーん、色々と考えるものですね。登場人物が(人間も宇宙人も)、みんな何だか可愛い。なごみました。

 「ベルが鳴るまで」は、暗号が面白い。素朴なものなのですが、それがいかにも小学生が書いたものらしくて。カップ・ラーメンを作る描写が長いせいで、肝心の後半が窮屈になってしまいましたね。

 「あの日の僕から」と「Sepia」は、似たようなまとめ方をした物語です。作者は同じ学校に通っているので、友だち同士なのかも。驚くなかれ、小学6年生の作品。これはもう、舌を巻くうまさです。甲乙つけがたいので、揃って佳作に選びました。二人とも、創作の喜びを知ったのですね。これからもたくさん本を読んで、楽しみながら小説を書いてください。

'08年10月「珍しく手紙が届いた。…」

Sepia

Kasaku2_4高須 萌衣さん 12歳(東大阪市立加納小学校6年)

10月の書き出し
 
珍しく手紙が届いた。差出人の名前はない。開封してみると、出てきたのは暗号らしきものだ。
「………izivnd………?」
 そこには、無数のアルファベットが並んでいた。『izivnd』の先にも、ぱっと見ただけでは意味が分からないようなアルファベットが並んでいるのだ。
 だが、しばらくそれを見て、僕の頭にふっ、とよぎったものがあった。そうだ、これは…………
「シーザー暗号……?」
 シーザー暗号といっても様々(さまざま)なものがあるが、この場合、アルファベットを何文字かずらせた文字に置き換えることによって暗号化するもののことだろう。…何故僕がこんなことを知っているかというと、それは僕がミステリー作家だから。
 さて、困ったことに僕はこの手紙に興味を持ってしまった。今、原稿を書いていたのだが、やはり好奇心には勝てず、僕は夢中で暗号を解読し始めた。

 しばらくして。
 解読できたのはいいのだが、少し時間がかかってしまった。暗号は英文ではなく、ローマ字で書かれた日本語の文章だったからだ。僕は声に出して読んでみた。
「『根無し草の物書きへ
  太陽の花が咲き誇る頃
  時は揺らぎ 空を抱く。
  今でも君は…。』……」
 不意にもう随分と皺(しわ)がふえてしまった頬(ほお)に、生温かい液体が伝うのを感じた。
 僕は、低い棚に置いてある一枚の写真に目をやる。
「………君だったんだね……」
 そこには、向日葵(ひまわり)の隣で笑う一人の少年がいた。かなり古いものだ。セピア色に変色している。
 僕は少し微笑んだ。

 窓辺に佇(たたず)む老人の姿があった。
 冷たい風が頬の涙を乾かそうとしていた。

'08年10月「珍しく手紙が届いた。…」

あの日の僕から

Kasaku2_4川中 みなみさん 11歳(東大阪市立加納小学校6年)

10月の書き出し
 
珍しく手紙が届いた。差出人の名前はない。開封してみると、出てきたのは暗号らしきものだ。
 
その暗号らしき文面は、正直よくわからなかった。
 「ぼたくたはたげたんたきたでたすたかた」と、お世辞にも綺麗(きれい)とは言えない文字で書いてあり、その横には、熊の様な動物の絵。…これは何なのだろう?っていうか、誰からなんだろう。でも、僕にはこの手紙に見覚えがあった。どこで見たのかは思い出せないが…。とりあえず、暗号みたいなので解読してみることにした。
 「た」がやたらと多いので、「た」を消してみよう。そして「た」を消した結果は、
「ぼくはげんきですか」だった。文にはなったが、よくわからない。
 「僕は元気ですか」。そんなの、自分がいちばん知っているんじゃないのか? それとも、これも暗号なのか、単なるいたずらかもしれない。でも、何かがひっかかる。その答えがでてきそうででてこない。こういう気分は好きじゃない。少し、イライラする。
 まぁ、今は置いておこう。もうすぐ学校ではテストだから、勉強しなくてはいけないし。とりあえず机に参考書やノートをひろげる。だけど、手紙のことが気になって、ちっとも手がつかない。
 僕はため息をついて、窓を開けた。外の空気が吸いたくなったんだ。
 すると、部屋の中にどこからか桜の花びらが一枚、ふわりと飛んできた。
 …桜。
「あっ!!」
 思い出した!あの手紙の差出人は…僕だ。
 小さいころ、僕は未来の自分へ手紙を書いた。ふつうの手紙じゃおもしろくないと思い、「た」をぬく暗号にしたのだ。あの熊のような絵は、タヌキのつもりだった。
 差出人も住所も書かず、切手だけはってポストに投入したのだ。10年後の自分へと。
 あの日は桜が満開だったのも覚えている。
 でも、ずっと忘れていた。あの時の未来への希望。今を生きるので精一杯の僕は、そんな気持ちを忘れていた。
 それに、どうしてこの手紙が届いたんだ? 誰が届けたんだろう…。
 その時、僕は誰かから見られている気がした。誰かの視線を感じたのだ。
 さっき開けた窓から外を見ると、玄関の所に郵便配達の人が立っていた。帽子をかぶっているので顔は見えないが、その人が少し笑った気がした。

'08年10月「珍しく手紙が届いた。…」

ベルが鳴るまで

Kasaku2_4川上 智史さん 22歳(大阪大外国語学部3年)

10月の書き出し
 
珍しく手紙が届いた。差出人の名前はない。開封してみると、出てきたのは暗号らしきものだ。手書きで、《▲凸 桜桜桜うめ桜 θ》とだけある。誰かの悪戯(いたずら)だろうか? それとも本当に暗号なのだろうか? 何かを僕に、あるいは不特定の誰かに伝えようとしているのだろうか? いや、しかし一応は僕宛に来ているのだし……本当に何だというのだ? いくら考えても分かりそうにないので、手紙はひとまず卓袱台(ちゃぶだい)に置いておき、昼食を作ることにした。作るといっても、お湯を注いで3分でできあがる、貧乏学生と料理無精の強い味方、簡単おいしいカップ・ラーメンである。フタを開け、電気ポットのお湯を内側の線まで注ぎ、フォークを重石(おもし)にしてフタを閉める。そして仕上げに、3分後にベルが鳴るよう、タイマーをセットする。カチッ。―残り3分。
 たったこれだけの、何の変哲もない作業なのだが、日々の訓練によって自然と一連の動作がより洗練されたものとなってきているのを感じる。そして僕はそのことに対して、自分でも上手く説明できない面白みを見出し、カップ・ラーメン作りを、芸術点を競い合うゲームへと昇華させてしまってさえいる。競技者は自分。ライバルも自分。審査員だって自分。今日の競技は8.5ポイント。まずまずだ。しかしこれは、22歳、大学4年生の生活として果たして正しいものなのだろうか? 僕はこれでいいのだろうか?―残り2分。
就職活動は上手く行かず、あっちこっちと這いずり回るが、いまだ内定はゼロ。電話に出れば、「残念ですが、今回はご縁がなかったということでご理解ください」という何の個性もない一方的なお知らせ。家族や友人からの連絡もない。うちのポストに入ってくるものといえば、新聞、チラシ、携帯電話の請求書くらいのものだ。世間にとって、僕は一体何なのだろうか? いずれは忘れ去られてしまうのだろうか? あるいは、もうすでに?―残り1分。
 昔はこんなんじゃなかった、様な気がする。とてもささやかな、つまらないと言っても差し支えないようなことでも楽しい気分になれていたと思う。今にして思えば、鼻で笑ってしまうようなこと。そう、例えば、例えば……「あぁ、タイム・カプセルだ。」名無しさんからの、暗号で書かれた、僕宛ての手紙。10年前の約束を果たすべく、他の誰でもない《僕》に宛てられた手紙。僕は再びその手紙に目をやる。今なら読める。「《学校の裏山 3本目と4本目の桜の木の間にうめた タイム・カプセルを》開こう。」10年前、小学6年生だった僕たちがそれぞれ自分の大切にしていたものを持ち寄り、缶の箱に入れ、ビニル袋で包んで埋めたタイム・カプセル。僕は忘れていた。そして、手紙の差出人もまた、肝心の日時を書き忘れていた。「全く……電話して訊(き)かなきゃな。」―ベルが鳴る。

'08年10月「珍しく手紙が届いた。…」