いっしょに小説を書きませんか?

私が考えた「ちょっと不思議な書き出し」に続けて、あなたの想像の翼を広げてみてください。

内容はまったくの自由。純文学でも、ミステリーでも、恋愛小説でも、SFでも、ファンタジーでも、怪談でも、童話でも、時代小説でも、何でもかまいません。思いついたままに物語を展開させればいいのです。お気に入りの作家を気取るのも楽しいでしょう。
 かぎられた枚数ではありますが、その中で人類を滅ぼすことも、命懸けの恋をすることもできます。あなたの小説を何十万もの人が読んで、泣いたり笑ったり怖がったりしてくれるかもしれません。

「小説なんか書いたこともない」という方も、どうか気軽にチャレンジしてみてください。世界を見る目が変わりますよ。

バトンを託した私が、「こんな小説になるとは!」と驚くような作品をお待ちしています。

[有栖川有栖]

■募集中の書き出し■

【3月の書き出し】(締切:2月20日)

これは桜を見に出かけたまま帰らなかった男の物語である。

応募方法はこちら



最後の七不思議

入選作品那須 晃毅さん 23歳 (関西大文学部4年)

■2月の書き出し
 講堂に集められた理由を知っている者はいなかった。いったい何が始まるというのか。
壇上に現れたるは眼光鋭い『ベートーヴェンの肖像画』。
 「昨今、質の悪い怪談の急増により、我ら学校の怪談の尊厳が失われつつある。よって私はこの状況を打破すべく『真の学校七不思議』の選抜を提案する。さて、問題は選抜の方法だが何か妙案は無いものか」
 集められた学校にまつわる妖怪達は、この急な提案に頷きあるいは首傾げ、議論の嵐が巻き起こる。
 騒然とする講堂に、ピシャリと響く1つの提案。声の主は半分全裸(?)半分むき出し、『人体模型』。
 「それならば全員で戦い最後まで残った7名が『真の学校七不思議』になればいいんじゃないか?」
 これには多くが頷いた。
 「おお、それはよい」「その話乗った」「アタシも」
 しかしこれも異論噴出。偉人なのに怪談扱い、薪を背負って読書読書の『二宮金次郎像』が言う。
 「馬鹿を言え。戦いが得手な者ばかりでないぞ。深夜に増える『十三段目の階段』の心情を慮れ。なあ?」
 流石は金次郎くん、なかなか思いやりがある。余談ではあるが君は金次郎本人の霊なのか? ただ銅像に取り憑いた無関係な霊なのか? どっちなんだ。
 「黙ってろ! 隠れておいて最後の決定間際に階段を突然増やし、転ばして勝ち残る計画が台無しだろ!」
 急に話を振られて口が滑った十三階段。なんたる卑怯、だが詰めが甘い。これを聞き激昂する金次郎。
 「気を使ってやったのに、お前はそんなことを考えていたのか。なんたる卑怯、なんたる不義理」
 ああ、なんて心の小さな金次郎。もしこれが本当に二宮尊徳の御霊なら、さぞ幸田露伴も悲しかろう。
 だが十三階段も負けじと言い返す。
 「俺は昔からお前のそういう所が大嫌いだったんだ。お前なんて前方不注意で車に轢かれちまえ」
 ここまで言われて黙っておけるか、と金次郎は殴り掛かった。流石は銅製、パンチが重そうだ。
 このケンカ、誰もが始めは静観していたが、今こそライバルを減らす好機と見たのだろう。次々と争いに参加する。史上空前の大乱闘が始まった。
 数十分後、全ての魑魅魍魎は同士討ちにより消滅した。まるで悪い冗談のような最期であった。
 ――以上が私の見た数十年前の話の全てです。
 「貴方は『講堂の大乱闘』が最後の七不思議だと?」
 私は自称『ブンヤ』の問いに少し眼を細め答える。
 「さて、あれは確かに不可思議な出来事でございました。しかし未だに彼らがまことしやかに語られている、これ以上の不思議は私にはございません」
 彼らは戻ってきたのか、それとも噂の独り歩きか。あるいは最初から存在しなかったのかもしれない。
 いや、きっと今もどこかにいるのだろう。彼らは不思議ゆえに。

[2010年2月2日掲載]

Alicekara_1講堂の壇上に立ったのはベートーヴェンの肖像画で、集まったのは人体模型に二宮金次郎像に十三段目の階段に……。情景を想像しただけで、にやにやしてしまいますね。学校の七不思議たちにこんな苦労があるとは。

'10年2月「講堂に集められた理由を…」

選考を終えて(1月)

 今回の書き出しは寺山修司の有名な歌をヒントにしているのです。

「マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや」

 勘がいい人は気がついていたかもしれませんが、それを意識したような作品はありませんでしたね。

 佳作の候補はたくさんあったのですが、三つに絞りました。

 「最後の灯火」は、ただ暗くて静かです。世界が消えていく理由はほのめかされもしません。私たち人間という存在の無常が投影されているかのよう。最後に瑞々(みずみず)しい姉の唇を描いたところが心憎い。

 「火だ。」は、切なくてもの哀(がな)しい。「火」が「悲」に通じているのでしょうか。この小説が何を語ろうとしているのかは、読む人それぞれが想像できます。そんな広がりを持った作品です。

 「氷の童話のある情景」は童話ではなく、童話のある情景。アラル、アラメという賛美歌は、子守唄(こもりうた)でもあるのですね。老女は世界の浄化を祈っているのかもしれません。マッチのぬくもりと雪の冷たさを感じました。

氷の童話のある情景

Kasaku2_4佐々木  紀子さん 23歳(アルバイト)

1月の書き出し
 マッチを擦り、闇に火を灯(とも)した。
「何が見える?」

 少女は顔をあげた。声をかけたのは、千鳥足で路地の奥からやって来た、ホームレスの老女だった。
 ――私は驚いて、火を吹き消してしまいました。アラル アラメ……。するとその人は、まぶしそうに目を閉じたのです……。
 この日はぽっかり晴れたクリスマスで、私はおばあちゃんに赤い厚手のコートを買ってもらいました。喜んでさっそく着て帰ると、暖かい部屋には上品なキャンドルや、七面鳥やケーキが真っ白なテーブルクロスの上にならびます。ツリーには赤や青や黄色の電球が、ピカピカ交互に光っています。
 ところがキャンドルに火を灯し、見つめたとき、不思議です。私はどうしようもなく、ふらりと外を散歩する気になりました。新しい赤いコートを着て。
 外は真っ暗で、しんしん雪が降り始めています。
 手がすでに氷のようです。左手にぎゅっとにぎったままのマッチ箱は、形がいびつに歪(ゆが)みます。家の裏の細い路地の、壊れた街灯の下にしゃがんで、手をぬくめようとマッチを擦りました。 
 すると、待っていたかのような吹雪です。かすかな炎を消し去り、誰かの家の庭の木の、大きな黒い塊をざあざあと笑うように揺らしました。胸が凍るような息をすいました。
 そうしてふと思います。いつか、おばあちゃんに本を読んでもらいました。それは少女が、マッチの炎の中に美しい幻をみるといったもので、少女の本当の灯火はこの世にないのでした。そこが一番好きなのです。少女のまねをするように、もう一度マッチを擦ります。ところが、当たり前のようですが、闇の暗さがもっと深くみえるのです。あれ、壊れた街灯の上には、まっさらな雪があんなに早く積もるのでしょうか?
 しかし……不思議です。ただじっと炎の熱を見つめると、いま着ている真新しい赤のコートが、だんだん不似合いでおかしくみえるのです。

「何が見える?」
 暗い路地裏のむこうから、ホームレスの老女が通りかかって、尋ねる。目を白黒させた真っ赤なコートの少女は、パッと火を吹き消す。
 二人の頭に雪が積もる。 
「アラル アラメ……」老女はぶつぶつと賛美歌を口ずさんで、まぶしそうに目を閉じる。
 そして今度は確かな足取りで、家路を急ぐ人たちが行き交う大通りの、鮮やかな大雪の中に溶けて。……
 アラル  アラル  アラメ。アラル  アラル  アラメ。

'10年1月「マッチを擦り、闇に…」

火だ。

Kasaku2_4熊澤 辰徳さん 21歳(神戸大理学部4年)

1月の書き出し
 マッチを擦り、闇に火を灯(とも)した。
「何が見える?」

「火。」
「おー正解。でも危ないから手を近づけないでね」
 そう言われると、少女は頷(うなず)き静かに火を見つめた。彼はろうそくを金属製のろう立てにすえ、机においた。
 さっきいきなり停電になり、不安そうに彼にすがりついていた少女は、ろうそくの火を見て幾分落ち着いたようだった。少女はちらちら揺れる火を無心に眺め続けている。
 少女の叔父である彼は、言葉の不自由な少女の扱いにもかなり慣れている。仕事柄何日も家を空けることの多い彼女の父、つまり彼の兄に代わり、また二年前に亡くなった少女の母に代わり、彼が少女の面倒を見る機会が多かったからだ。
「もうしばらく電気つかないかもしれないし、ちょっと早いけどもう寝ようか」
 彼がそういうと少女は「ん。」と答え、ろうそくを持った彼について洗面所へ行き、おぼろげな明かりの中で歯を磨いた。そして手さぐりで布団を敷き、一旦(いったん)ろうそくを枕元に置いて、まだ眠くない少女のために彼が作った物語を話して聞かせた。
 少女が初めて言葉を話したのは三歳の時、それもただ一言「あ、」と言っただけだった。それは丁度(ちょうど)、少女の母が息を引き取ったのを見た時に、少女の口から漏れた言葉だった。それまで何故(なぜ)か全く喋(しゃべ)ることが出来なかったので、これからはいろんな言葉を話せるようになるかと思われたが、来年から小学生になるというのに、未(いま)だに一文字以上の言葉を発することは出来ないでいる。だから少女は、一文字で答えられる質問をされることが大好きだった。
 寝付いて少しした後、少女が不意に目を覚まし、枕元でまだ燃えていたろうそくをじっと見つめた。そして「火。」とつぶやき、おもむろに火に手を伸ばした。火が熱いものと知らない少女の指が橙色(だいだいいろ)の光に炙(あぶ)られると、少女は「あ、」と声をあげ、手をはたはたさせた。そのはずみでろうそくは倒れ、ちろちろとカーペットに、そして布団に火が移っていった。少女は「火、」とつぶやいたきり叫ぶことも出来ず、彼をゆすったがいっこうに起きる気配がなかった。指先の焼け焦げた熱さを思い出して怖くなり、少女は必死で炎から逃れ、声も出さずに泣きながら家から出た。
 ひくひく泣いている少女を見かけた近所のおばさんが声をかけたが、少女が「ひ」としか言わないので、少しして彼の家から煙が出たのを見るまで事態をのみこめなかった。やがて本格的に家が燃えはじめても、少女は「火」としか言えなかった。しかし、やっと消火活動が始まったころ、少女は急に「火だ。」と言った。それが丁度、彼が帰らぬ人となった時と一致したことには、さすがに誰も気づかなかった。

'10年1月「マッチを擦り、闇に…」

最後の灯火

Kasaku2_4板山 彩実さん 19歳(同志社大法学部1年)

1月の書き出し
 マッチを擦り、闇に火を灯(とも)した。
「何が見える?」

「何も見えない」
「だよねぇ」火をかかげる姉が首をかしげたようだ。
「普通なら見えるはずなのにね。おかしいね」
 そう言う姉の顔は闇に覆われて全く分からない。唯(ただ)不思議と、姉と思わしき人の手だけがうすぼんやりと闇に浮かび上がっていた。その手に向かって僕は言う。
「ホントにおかしいね。光線って、何か遮るものがないとどこまでも続くものじゃなかったっけ?」
 夏のキャンプでそう教えてもらった。懐中電灯を何メートルも距離がある山にむけると山肌に、くっきりと丸い光の円が出来ていた。あんなに遠い山の木々だって自分の手元にある光で照らせたのに。
「何で目の前にいるお姉ちゃんの顔は見えないの?」
 まつげを焦がしてしまいそうなほど、火を顔近くにかかげた姉が微笑(ほほえ)んだ気配がした。
「しょうがないのよ、だって」
 マッチを握っている姉の手は、つやつやと鈍く輝く。
「これ以外のこの世界のものは、もう消えたんだから」
 そう、実を言うと、僕らは今世界に二人きりなのだ。何故(なぜ)かというと、ほんの一月かそこら前に、いきなり世界のいろんなものが消え始めた。僕の友達、姉のピアノ。僕の家、姉の恋人。あっという間に消えていって、僕の周りには、姉と姉が握りしめていたマッチしか残らなくなった。細く今にも消えそうな火と輝く手以外もう、僕の世界には何も見えない。
「お姉ちゃん、これからどうしようか。というより、僕はまだこの世界にいる?」
 自分の手も顔ももう見ることができないから、何だかまだ自分に人の目に見えるような実体があるのかも、あやふやだった。
「わからないわ。何も見えないんだもの」
 姉はそう短く答えると、更に火を顔に近づけた。
「そうか、ならもういいや」
 そう応じて僕も姉が持つ火に顔を近づけてみた。僕らの間でゆらゆら揺れている炎は、何も照らさないせいか、妙に非現実的で幻のようだった。
「幻影みたいだ」僕が言う。
「これしかもう現実はないのよ」姉が応える。
 そう言う姉の口元の辺りをそっと窺(うかが)うと、不意に姉の微(かす)かに開かれた口元だけが見えた。
 ぱさぱさに乾いて白くなった唇の、水分を恒常的に含んでいる内側だけが、サクランボのようにつやつやと瑞々(みずみず)しい。白く煙った赤の縁取りの向こうに、僕らの周りを取り囲んでいるのと同じ暗闇があった。その奥からすうっと冷たい風を感じる。
 火が揺らめき、世界と姉が遠くなる。煙の匂(にお)いと共に、暗闇が濃くなった。
 火が消える。

'10年1月「マッチを擦り、闇に…」

幻灯機譚

入選作品芳田 直征さん 20歳 (徳島大工学部2年)

■1月の書き出し
 マッチを擦り、闇に火を灯(とも)した。
「何が見える?」
 そう云いながら彼が文机の上に置かれた行燈に火を入れると、空気さえ凍りつきそうな部屋の中で僅かに暖かさが生まれ、四隅に暗さを残したまま、お互いの姿が光の中に薄ぼんやりと浮かび上がった。
 ゆらゆらと揺れる灯りが照らす室内は幻灯機が作り出す虚像の様に、窓辺に彼が一歩近づく度、時間と空間が歪み別の世界を生み出してゆく。外の暗闇と中の明るさは遮る布も無い窓硝子を鏡に変え、二人の顔を映していた。夕刻から降り始めた雪が寒さを深々と染み込ませてくる。
 窓の前に立った彼が少し躊躇う様に硝子にそっと触れると、突然そこにもう一人の顔が映り込んだ。驚いて後ろを振り返るが、この部屋に存在するのは二人だけで、当然何処にももう一人の姿は見えない。
 それはまだ歳若い少女の姿。勿論外に立ち尽くしている訳ではなく、朦朧とした影の如く硝子の中で息づいていた。私に気がつき少し困った表情になったが、彼の顔を見つけ優しく微笑んだ。
「見えたか?」
 彼はまた問うた。しかし返事も出来ずに、私はただ頷いただけであった。
「雪の夜、行燈に火を入れた時にだけ、現れる」
 誰に聞かせるでもなく、少女に視線を留めたまま呟く。硝子に掌を置くと、少女の掌が硝子越しに重なる。
「会えるのに、触れることが出来ないんだ」
 搾り出す様な彼の声、悲愴な表情。
 たった一枚の薄く透明な脆い硝子。力を込めれば直ぐに壊れてしまいそうに。しかしそれはどうしようもない程、永遠に二人の掌を隔てる。壁に振り上げた彼の拳を見て、少女は哀憐の表情を浮かべ、頬に涙が流れた。
 外は既に雪も止み、天空で月が煌々と輝く。
 私が言葉も無く溜息を吐くと、息は白く拡がった。

 それがあの夜、決して誰にも口外していない出来事。
 やがて桜の季節へと移り変わった頃、部屋に家具もお金もそのままに、彼が行方不明になった事を人伝てに聞いた。酔狂人の気紛れか、それともこの世ならぬ道行を叶えたか。彼が残した手紙の意志により、私の元に行燈が届けられ、そして私はそれを押入れの奥深く仕舞いこんだ。あの夜の寒さと共に。
 この冬、雪が降ったなら、行燈に火を灯そうと思っている。凍えそうな夜の部屋の中で独り。
 その時、窓硝子に何が映るだろう。
 二人の笑顔を見る事が出来れば良いと、心から私は願っているのだが。

[2010年1月26日掲載]

Alicekara_1冬の宵に、素敵な小説をどうぞ。作者が慎重に言葉を積み上げてできた作品です。ちょっとバランスが崩れていたら、この幻をとらえそこねたでしょう。江戸川乱歩の「押絵と旅する男」にも似た哀切な詩情があります。

'10年1月「マッチを擦り、闇に…」