選考を終えて(10月)

 ワープロで打てる文字や記号だけでなく、フリーハンドの図形や絵が使えたらもっとバラエティ豊かな暗号が集まったでしょうね。それでも皆さん、がんばって工夫をしてくれて、そこから生まれた物語も多彩でした。

 今回の佳作は四編。

 「中身より見た目」は、暗号そのものは出てこず、用紙がもっと不思議だった、という発想に感心しました。うーん、色々と考えるものですね。登場人物が(人間も宇宙人も)、みんな何だか可愛い。なごみました。

 「ベルが鳴るまで」は、暗号が面白い。素朴なものなのですが、それがいかにも小学生が書いたものらしくて。カップ・ラーメンを作る描写が長いせいで、肝心の後半が窮屈になってしまいましたね。

 「あの日の僕から」と「Sepia」は、似たようなまとめ方をした物語です。作者は同じ学校に通っているので、友だち同士なのかも。驚くなかれ、小学6年生の作品。これはもう、舌を巻くうまさです。甲乙つけがたいので、揃って佳作に選びました。二人とも、創作の喜びを知ったのですね。これからもたくさん本を読んで、楽しみながら小説を書いてください。

'08年10月「珍しく手紙が届いた。…」
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Sepia

Kasaku2_4高須 萌衣さん 12歳(東大阪市立加納小学校6年)

10月の書き出し
 
珍しく手紙が届いた。差出人の名前はない。開封してみると、出てきたのは暗号らしきものだ。
「………izivnd………?」
 そこには、無数のアルファベットが並んでいた。『izivnd』の先にも、ぱっと見ただけでは意味が分からないようなアルファベットが並んでいるのだ。
 だが、しばらくそれを見て、僕の頭にふっ、とよぎったものがあった。そうだ、これは…………
「シーザー暗号……?」
 シーザー暗号といっても様々(さまざま)なものがあるが、この場合、アルファベットを何文字かずらせた文字に置き換えることによって暗号化するもののことだろう。…何故僕がこんなことを知っているかというと、それは僕がミステリー作家だから。
 さて、困ったことに僕はこの手紙に興味を持ってしまった。今、原稿を書いていたのだが、やはり好奇心には勝てず、僕は夢中で暗号を解読し始めた。

 しばらくして。
 解読できたのはいいのだが、少し時間がかかってしまった。暗号は英文ではなく、ローマ字で書かれた日本語の文章だったからだ。僕は声に出して読んでみた。
「『根無し草の物書きへ
  太陽の花が咲き誇る頃
  時は揺らぎ 空を抱く。
  今でも君は…。』……」
 不意にもう随分と皺(しわ)がふえてしまった頬(ほお)に、生温かい液体が伝うのを感じた。
 僕は、低い棚に置いてある一枚の写真に目をやる。
「………君だったんだね……」
 そこには、向日葵(ひまわり)の隣で笑う一人の少年がいた。かなり古いものだ。セピア色に変色している。
 僕は少し微笑んだ。

 窓辺に佇(たたず)む老人の姿があった。
 冷たい風が頬の涙を乾かそうとしていた。

'08年10月「珍しく手紙が届いた。…」
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あの日の僕から

Kasaku2_4川中 みなみさん 11歳(東大阪市立加納小学校6年)

10月の書き出し
 
珍しく手紙が届いた。差出人の名前はない。開封してみると、出てきたのは暗号らしきものだ。
 
その暗号らしき文面は、正直よくわからなかった。
 「ぼたくたはたげたんたきたでたすたかた」と、お世辞にも綺麗(きれい)とは言えない文字で書いてあり、その横には、熊の様な動物の絵。…これは何なのだろう?っていうか、誰からなんだろう。でも、僕にはこの手紙に見覚えがあった。どこで見たのかは思い出せないが…。とりあえず、暗号みたいなので解読してみることにした。
 「た」がやたらと多いので、「た」を消してみよう。そして「た」を消した結果は、
「ぼくはげんきですか」だった。文にはなったが、よくわからない。
 「僕は元気ですか」。そんなの、自分がいちばん知っているんじゃないのか? それとも、これも暗号なのか、単なるいたずらかもしれない。でも、何かがひっかかる。その答えがでてきそうででてこない。こういう気分は好きじゃない。少し、イライラする。
 まぁ、今は置いておこう。もうすぐ学校ではテストだから、勉強しなくてはいけないし。とりあえず机に参考書やノートをひろげる。だけど、手紙のことが気になって、ちっとも手がつかない。
 僕はため息をついて、窓を開けた。外の空気が吸いたくなったんだ。
 すると、部屋の中にどこからか桜の花びらが一枚、ふわりと飛んできた。
 …桜。
「あっ!!」
 思い出した!あの手紙の差出人は…僕だ。
 小さいころ、僕は未来の自分へ手紙を書いた。ふつうの手紙じゃおもしろくないと思い、「た」をぬく暗号にしたのだ。あの熊のような絵は、タヌキのつもりだった。
 差出人も住所も書かず、切手だけはってポストに投入したのだ。10年後の自分へと。
 あの日は桜が満開だったのも覚えている。
 でも、ずっと忘れていた。あの時の未来への希望。今を生きるので精一杯の僕は、そんな気持ちを忘れていた。
 それに、どうしてこの手紙が届いたんだ? 誰が届けたんだろう…。
 その時、僕は誰かから見られている気がした。誰かの視線を感じたのだ。
 さっき開けた窓から外を見ると、玄関の所に郵便配達の人が立っていた。帽子をかぶっているので顔は見えないが、その人が少し笑った気がした。

'08年10月「珍しく手紙が届いた。…」
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ベルが鳴るまで

Kasaku2_4川上 智史さん 22歳(大阪大外国語学部3年)

10月の書き出し
 
珍しく手紙が届いた。差出人の名前はない。開封してみると、出てきたのは暗号らしきものだ。手書きで、《▲凸 桜桜桜うめ桜 θ》とだけある。誰かの悪戯(いたずら)だろうか? それとも本当に暗号なのだろうか? 何かを僕に、あるいは不特定の誰かに伝えようとしているのだろうか? いや、しかし一応は僕宛に来ているのだし……本当に何だというのだ? いくら考えても分かりそうにないので、手紙はひとまず卓袱台(ちゃぶだい)に置いておき、昼食を作ることにした。作るといっても、お湯を注いで3分でできあがる、貧乏学生と料理無精の強い味方、簡単おいしいカップ・ラーメンである。フタを開け、電気ポットのお湯を内側の線まで注ぎ、フォークを重石(おもし)にしてフタを閉める。そして仕上げに、3分後にベルが鳴るよう、タイマーをセットする。カチッ。―残り3分。
 たったこれだけの、何の変哲もない作業なのだが、日々の訓練によって自然と一連の動作がより洗練されたものとなってきているのを感じる。そして僕はそのことに対して、自分でも上手く説明できない面白みを見出し、カップ・ラーメン作りを、芸術点を競い合うゲームへと昇華させてしまってさえいる。競技者は自分。ライバルも自分。審査員だって自分。今日の競技は8.5ポイント。まずまずだ。しかしこれは、22歳、大学4年生の生活として果たして正しいものなのだろうか? 僕はこれでいいのだろうか?―残り2分。
就職活動は上手く行かず、あっちこっちと這いずり回るが、いまだ内定はゼロ。電話に出れば、「残念ですが、今回はご縁がなかったということでご理解ください」という何の個性もない一方的なお知らせ。家族や友人からの連絡もない。うちのポストに入ってくるものといえば、新聞、チラシ、携帯電話の請求書くらいのものだ。世間にとって、僕は一体何なのだろうか? いずれは忘れ去られてしまうのだろうか? あるいは、もうすでに?―残り1分。
 昔はこんなんじゃなかった、様な気がする。とてもささやかな、つまらないと言っても差し支えないようなことでも楽しい気分になれていたと思う。今にして思えば、鼻で笑ってしまうようなこと。そう、例えば、例えば……「あぁ、タイム・カプセルだ。」名無しさんからの、暗号で書かれた、僕宛ての手紙。10年前の約束を果たすべく、他の誰でもない《僕》に宛てられた手紙。僕は再びその手紙に目をやる。今なら読める。「《学校の裏山 3本目と4本目の桜の木の間にうめた タイム・カプセルを》開こう。」10年前、小学6年生だった僕たちがそれぞれ自分の大切にしていたものを持ち寄り、缶の箱に入れ、ビニル袋で包んで埋めたタイム・カプセル。僕は忘れていた。そして、手紙の差出人もまた、肝心の日時を書き忘れていた。「全く……電話して訊(き)かなきゃな。」―ベルが鳴る。

'08年10月「珍しく手紙が届いた。…」
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中身より見た目

Kasaku2_4平野 淳士さん 23歳(京都府宇治市)

10月の書き出し
 
珍しく手紙が届いた。差出人の名前はない。開封してみると、出てきたのは暗号らしきものだ。
「なんだこれ。いたずらか?」
 その手紙をくしゃくしゃに丸めて、ゴミ箱に向かってポイと投げた。が、その手紙は手から離れると同時にパッと開き、ヒラヒラと足下に舞い落ちた。丸めるのがダメなら破いてやれと、力を込めるが手では全く破けない。ハサミもカッターナイフも無意味だった。何をしてもその手紙は、キズひとつなくシワひとつなく開けた状態を維持するのだった。もう封筒にも収まらない。怖くなって大学の友達に電話した。
「おい、聞いてくれよ! オレの家に変な手紙が届いたんだ!」
「なに?! オマエもか?」
「オマエもってまさかそっちにも…?」
「あぁたぶん同じものだ。何をしても開く手紙に何語かもわからない字が書かれているんだろ?」
「そう、それだ!」

 翌日から日本中が大騒ぎになった。何しろ日本のポストというポストにこの不思議な手紙が届いていたのだ。マスコミが火付け役となり、混乱はあっという間に日本中に広がった。
 手紙の材質は何か?
 手紙に使用されている言語、いや記号は何なのか?
 この2点を解決するべく、学者という学者が知恵を振り絞った。その結果分かったことは、どちらも地球上のものではないということだけだった。マスコミは喜んでこの事実を取り上げ、さらに国民を不安にさせた。
 だが、そんな混乱もすぐに収まった。冷静に考えれば、置く場所に困るわけでもなく、嫌な臭いや音がするわけでもない。特に悪影響はないのだ。
 むしろこんなにも便利な新しい材質があったことに各種業界は大喜びした。しかし、数が限られていることだけが悩みの種だった。

 日本のはるか上空でこの手紙を配った人達が話している。キノ星人である。
「遅い。まだ返事が来ない。我々は地球と交流したいだけなんだぞ。」
「まぁそうイライラしなくても。しかし、せっかく宇宙共通語で書いて、しかも破けたりしないようにわざわざ宇宙一丈夫な形状記憶紙まで使ったのにね。」
「これがイライラせずにおれるか。あんなちっぽけな島国にしか送らないからじゃないのか。」
「あの国はこれを読めるくらい科学が発達してると思ったんだけどな。今度は地球全体に送ろうか。それも毎日。これなら無視もできないよ。」

'08年10月「珍しく手紙が届いた。…」
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永久に届かぬ思い

入選作品越智栄梨華さん 22歳 (大阪経済大4年)

■10月の書き出し
 珍しく手紙が届いた。差出人の名前はない。開封してみると、出てきたのは暗号らしきものだ。
薄い桜色の封筒に入っていた手紙。かわいらしいと言うような小さな文字が並んでいる。
 「いきなりお手紙を差し上げて 。どうしても    です。私は です。数ヶ月前の晩、お屋敷の前で   から なったのです。こんな ありません。一度でも ?直接この 。今週の金曜の夜また、お屋敷の前に行きます」
 それほど長い文章ではないのだがいかんせん文章のほとんどが読めない。手紙の言いたいこと、意味が私には理解できなかった。こんな世捨て人のような私に手紙とはいったい誰だろう? 来てくれるようだから訊ねてみることにするか。
 そして金曜日当日、私の屋敷の前に現れたのはおさげの少女だった。少女は緊張しているのかなかなか話さない。しょうがなく私から話し始めた。
 「さあどうぞお嬢さん紅茶でも飲んでくつろいで下さい。それとお聞きしたいのですが、私にはあなたの手紙の内容がよく分からなかったのです。教えて頂けませんか」もらった手紙を渡す私に一瞬少女は驚いた顔を向けたがすぐに微笑んだ。
 「あなたは外国にでも住んでいたのですか? 言葉は流暢なのに文字は苦手なんですね。あなたのことが好きになってしまったのです」
 「そんな感情を私に抱いて頂けるとは」と言いながら頬を染め私を見つめる少女の隣にこしかけた。
 「そうだ吸血鬼を知っていますか? 彼らは人を愛したとしても幸せにすることができない。距離を置こうともしたが忌み嫌われても人を引きつけてしまう。今まで何度も辛い経験をした彼らはついに神に頼んで人に対する感情を一切消してもらったのです。これで人を愛する事も恋しがったりする事もなくなり愛を語る文字もなくしてしまいました。彼らには生きる為にあなたのような素敵な方の血を求める衝動だけ残ったのです。だから私には手紙が読めなかったのですよ。あなたの気持ちに応えることはできないのでしょうね」
 先程までの笑顔が消え去り不安と恐怖が入り交じった表情をする少女の首筋に私は唇を近づけていった。
 「いきなりお手紙を差し上げてごめんなさい。どうしても伝えたいことがあるのです。私はあなたのことが好きです。数ヶ月前の晩、お屋敷の前で初めてお姿を拝見してから忘れられなくなったのです。こんな気持ちは感じたことがありません。一度でも良いですから会ってもらえませんか?直接この熱い思いを伝えたいのです。今週の金曜の夜またお屋敷の前に行きます」
 血の気のなくなった白い少女の手から彼女の手紙がはらりと落ちた。

[2008年10月27日掲載]

Alicekara_1 読めない文字があるため暗号も同然になった文章、というアイディアのものは他にありませんでした。書き手が意図しなかったことなのですね。そうなった理由に意表を衝かれました。こんな暗号を読んだのは初めてです。

'08年10月「珍しく手紙が届いた。…」
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ラブレター

入選作品高橋 愛さん 20歳 (神戸大経営学部2年)

■10月の書き出し
 珍しく手紙が届いた。差出人の名前はない。開封してみると、出てきたのは暗号らしきものだ。
「本当に私宛(あて)のものですか?」
「はい。小磯綾乃様はお客様しかおりませんので」

 確かに宛名には私の名前が書いてあるから確認されても困るだろうが、手紙を届けに来た女主人は笑顔を崩さず答えた。しかし、私が今この海辺のペンションに宿泊していることは、ペンションにいる人間と私しか知らないはずだ。親兄弟、友人にも何も告げずに出てきたのだから。中学生の頃、演劇部の合宿で毎年訪れていたこの海岸は、海水浴のシーズンはとっくに過ぎてしまったこの季節、ひっそりと静まり返っていた。

 波の音に包まれながら、ぼんやりとした状態で一晩中過ごした私の頭は、朝日が昇って数時間たつ今も夢と現実の境界を漂っているようで覚醒(かくせい)しきれていない。
「孤星の頂に永遠が眠る」

 窓際に置かれたベッドに腰かけ、黄ばんだ便せんに子供が書いたような字で綴(つづ)られた意味不明の文章をぼうっと眺めていると、ふと昔のことが思い出された。

 合宿の夜、同級生の京介と宿を抜け出し、浜辺を歩いた時に小さな島を見つけたことがあった。引潮の時は島まで道ができるが、潮が満ちた時は誰も寄せつけずにぽかりと浮かんでいる。その様子が、まるで宇宙に浮かぶ孤独な星のようだと語ったことがあった。他愛(たわい)もない会話だったが、「孤星」とはその島のことで、「頂」とは島の端の一番高くなっている場所のことではないか。そこに何かあるのか? これは私と京介だけに通じる暗号だ。これは京介が書いたのか…?

 私は手紙を握りしめたまま夢中で島を目指した。潮が満ちてきており、島へ続く道は沈みかけている。ジーンズの裾(すそ)が濡(ぬ)れるのも構わずたどり着いたその場所には、最近掘ったような跡がある。道具など何も持っていないので素手でそこを掘り返すと、小さなブリキの箱が出てきた。中には一通の手紙と指輪。ふるえる手で手紙を開けると、今度は大人の字でただ一言、「結婚しよう」。
「本当に、バカなんだから…」

 呟(つぶや)いた途端、涙があふれだす。

 京介は私がここに来ることを知っていた。十年後の私の誕生日に、島から眺めた海辺に佇(たたず)むペンションに二人で泊まりにくるという幼い日の約束を彼も覚えていたのだ。そして、黄ばんだ便せん。あの時すでに、この日のために手紙を書いていたのか―。

 低く唸(うな)る海風と激しい波の音だけが鳴り響く。泥だらけの手に指輪をはめることはできなかった。

 陸へ戻る道は完全に閉ざされた孤星の頂で、二通の手紙を握りしめたまま私は声をあげて泣いた。

 今ここに私がいることは誰も知らない。親兄弟も、友人も、警察も。

 ただ一人知っているはずの彼は私が殺したのだから。

[2008年10月20日掲載]

Alicekara_1 どう展開するのだろうか、と思いながら読み進めていき、最後ではっとしました。切れ味抜群の幕切れです。謎めいた暗号も、とてもいい。情景が目に浮かんで、哀切な余韻が残ります。寄せては返す波の音とともに。

'08年10月「珍しく手紙が届いた。…」
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使い

入選作品杉谷佳那さん 17歳 (神戸市立兵庫商業高校3年)

■10月の書き出し
 珍しく手紙が届いた。差出人の名前はない。開封してみると、出てきたのは暗号らしきものだ。
そこには、“44444222211555551119”と書かれていた。電話番号にしては長すぎる。そして何より、差出人が分からないので、気味が悪い。私は、いてもたってもいられず、仲の良い友達に、このことをメールで伝えようと思った。携帯を開き、文章を打つ。その時、はっとひらめいた。携帯の1のボタンでは、「あ」が打てる。1を2回押せば、「い」が打てる。もしかすると、この手紙の数字のように打てば、文章になるかもしれない。私は友達にメールをしようとしていたことも忘れ、自分の考えに夢中になった。

 「ええと。4を5回で『と』、2を4回で『け』、1を2回で『い』、5を5回で『の』、1を3回で『う』、9をそのままで『ら』か。ん~…と・け・い・の・う・ら?」。ひらめきでやってみたのに、ちゃんと文になった。それにしてもとけいのうらとは何だろう。私の部屋には水色の丸い大きな時計が壁にかかっている。その時計の裏を見た。そこには、見覚えのない四つ折の紙が貼(は)ってある。広げてみてみると、“4442221111555551119”とある。「またかぁ」。同様に、文に直してみる。「つ・く・え・の・う・ら」。今度は、部屋の真ん中に置いてある白いつくえの裏側を見た。そこにはまた、四つ折の紙が貼ってある。広げてみると、やはりそこにも“62222255555・52”とある。「はこのなか」? 箱とは何のことだろう、と首をかしげていると、部屋の真ん中にあるつくえの上に、先ほどまではなかったはずの見たことのない小さな黒い箱が置いてある。恐る恐る開けてみた。そこには、また、四つ折の紙があった。“117333334496666”と書いている。「い・ま・そ・ち・ら・へ…?」。鳥肌が立った。気味が悪い。これは、いたずらだろうか? そんなことを思っていると、“ピンポーン”と、チャイムが鳴った。直感で、扉を開けてはいけない、そう思った。何故かは分からない。しかし、私の手は、私の意志を無視して扉を開けてしまった。そこには、肩から黒い布をまとい、無表情でどこか別の世界を見つめているような冷たい目を持った人が立っていた。私は体が固まった。黒い人物は、すっと、白い四つ折の紙を私に渡してきた。それを、震える手で受け取り、ゆっくりと広げてみた。“154007772111155227334”。ふと、紙から目を上げると、そこに黒い人物はいない。あわてて、携帯を取り、文字になおす。「あ・な・た・を・む・か・え・に・き・ま・し・た」。その瞬間、真っ白な光が私を包んだ。それから先は覚えていない。

 そして今、私は真っ黒な布を身にまとい、とある家の玄関先に立っている。

 くれぐれも、差出人不明の手紙にはご注意を。

[2008年10月6日掲載]

Alicekara_1 とてもシンプルな暗号なのに、私には見当がつきませんでした。なるほどね。それでどうなるんだろう、と楽しく読み進み、最後まで作者に翻弄されました。もっと改行を増やせば、さらにテンポがよくなったでしょう。

'08年10月「珍しく手紙が届いた。…」
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