選考を終えて(8月)

 毎年、7月は試験と重なるために応募作が減ります。今回は作品数が少ないだけでなく、内容も全体的にやや低調でした。中盤までは面白いのに、最後に失速するパターンが多くて。

 佳作に選んだ二編にも、そのきらいはあります。惜しい。

 「もしかしたらあの子も」は、とんでもない結末ですね。犬の能力が身についたところで、それを利用して何かやらされるのかと思ったら……。失踪者のニュースの意味が、最後にすり替わるのがいい。題名は工夫の余地あり。

 「黄色さん」のモニター募集は、〈モニター〉になるアルバイトの募集だったわけですね。炎天下にご苦労さま。ほのぼの系で、何だか可愛いですね。「『人間モニター3』、シーン1』を最後の1行にすればよかったのに。

 来月は、またがらりと趣の変わった書き出しです。盛り返すことを期待しましょう。

'08年8月「モニター募集の広告を…」
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黄色さん

Kasaku2_4玉田 雄治さん 20歳(大阪電気通信大総合情報学部3年)

8月の書き出し
 モニター募集の広告を目にして、軽い気持ちで応募してしまった。それがどんな仕事なのかも確かめずに。

「お疲れ様です」
「あ、どうも」
 全身どピンクの先輩が、お茶を差し出しながら声を掛けて来た。「いただきます」とそれを受け取ると、ピンクさんは僕の隣りに腰掛けた。
「いやぁ、今日もあっついねぇ。大丈夫?」
 ピンクさんは、全身タイツの襟元(もちろん、どピンク)を摘(つま)みながら、首を傾(かし)げた。
 「大丈夫です」とは答えたものの、正直に言えば大丈夫とは言い難い。
 今朝、現場に入ってすぐに黄色の全身タイツを着せられ、顔中に黄色の顔料を塗りたくられた。
 炎天下の木陰に、ピンクさんと「黄色さん」と呼ばれても不思議ではない僕が並んで座っていても、周囲の人間は、誰も気に留めない。周りには、青さんも緑さんも、黒さんも白さんもそれぞれ10人ずつくらいいるのだから、当たり前と言えば当たり前、だ。
「あの、ピンクさ――先輩は大丈夫なんですか?」
「オレ? ああ、平気だよ。もう、慣れた」
「へぇ。――あの、せんぱ」
 ピンクさんに次の質問を投げようとした所で、彼は不意に立ち上がった。ピンクさんの視線を追い掛けると、スタッフさんが台本を丸めて呼びかけていた。
「ほら、行くぞ」
 ぼーっと座っていた僕は背中を叩(たた)かれてようやく立ち上がり、ピンクさんの3歩後ろについて集合場所へ移動した。
「青の方3人は、ここに並んで下さい。白の方は、ラインの上に」
 スタッフさんが、色別に立ち位置を指定して行く。ピンクの集団に紛(まぎ)れ、もはやどれがピンクさんか分からなくなってしまったが、探す暇もなく、前を向かされた。隣に来たのは、黒の人。どんな人かと観察していると、キョロキョロするな、としかられた。
「それでは、本番です」
 カメラも証明も、集音マイクも向けられて、嫌が応にも緊張が走る。緊張が走った所で、僕の顔なんて識別出来ないだろうけど。
「『人間モニター3』、シーン1」
 少しばかりの間を開けて、助監督さんのカチンコが音を立てる。
 僕は今、画面<モニター>になる。

'08年8月「モニター募集の広告を…」
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もしかしたらあの子も

Kasaku2_4越智 栄梨華さん 21歳(大阪経済大4年)

8月の書き出し
 モニター募集の広告を目にして、軽い気持ちで応募してしまった。それがどんな仕事なのかも確かめずに。
そして数日後思いの外大きい荷物が届いた。
 「ただのモニターにしては大きくないか? 後で料金を請求されたりしないだろうな」
 不安に感じながらもダンボールを開けてみる。しかし、詐欺ではなかったようだ。
 『モニター協力ありがとうございます。まずは説明書を読んで下さい。』と書かれた紙が出てきた。他には説明書と犬のDVD、10個ほどの缶詰が入っていた。
 「缶詰の試食か、でもこのDVDは何だ?」
 よく分からないまま説明書を読んでみる。つまりこういう事だった。某製薬会社で人の潜在能力を引き出し、感覚を鋭くする薬が開発されたらしい。人体には害はなく、効果のデーターを取る為のモニターだそうだ。この缶詰にその成分が含まれてるということだ。1日2個食べるだけでよいらしい。そしてDVDは動物的感覚を覚える為のもので缶詰を食べた後、映像を見ながら犬の仕草を真似するように書いてあった。
 ばかばかしく思いながらも説明書の通りにやってみた。すると3日目には聴力に変化が起こった。集中するとアパート中の声が聞こえる。次に嗅覚(きゅうかく)が鋭くなり、何百メートル先の火事にも気がついた。これはすごい、何か金儲(もう)けができないか考えたが思いつかない。そこでテレビをつけると最近失踪者がたくさんでているというニュースをやっていた。
 「そうだ、探偵になって人捜しをすれば金も稼げて感謝もされるぞ。明日から活動開始だ」
 しかし、そんなことは実現しなかった。次の朝目が覚めると部屋中が広がっていた。驚いて飛び起きると本来自分の手があるところに見慣れないふわふわしたモノがあった。事態が飲み込めず、呆然(ぼうぜん)としていると見知らぬ男が入ってきた。警戒しながら叫ぶ。
 「おまえ誰だ。何で勝手に入ってきた」
 人の言葉をしゃべってもこいつは驚きもしない、何か知っている。
 「モニター協力ありがとう。まあこれはかわいいわんちゃんだ。上手くいったようですね」
 「おまえらのせいか。なんで俺は犬になっている!!」
 小さい体で騒ぐ俺に微笑みながら男は答えた。
 「最近、人口増大が問題になっています。そこで私たちは無駄な人口を減らすことにしました。折良くペットブームですので生活は保障しますよ」
 「もしやあのニュースは……こんなひどい事認められるか! すぐに元に戻せ」
 「ほら興奮しないで。大丈夫ですよ、これで何もかも忘れてしまいますから。記憶も言葉もね」
 男の指を鳴らす乾いた音が耳元で響いた……

'08年8月「モニター募集の広告を…」
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千夜のモニター

入選作品新谷 綾子さん 14歳 (洛南高校付属中学校3年)

■8月の書き出し
 モニター募集の広告を目にして、軽い気持ちで応募してしまった。それがどんな仕事なのかも確かめずに。

 三日後届いた小包の中に入っていたのは、今流行(はや)りの大型薄型テレビだった。
 僕はさっそくそれをつなげ、スイッチを入れた。映ったのは、果てしのない砂漠のみ。初めは、当然中東の紹介番組だろうと思った。すぐにピラミッドや賑(にぎ)わう市場、それにターバンを巻いた人々が現れると思っていた。が、何分経(た)っても映るのは砂だけだった。
 故障ではない……と、その時。風で巻きあがった砂の中から何かが見えた。
 人だ。こちらに近づいてくる……見えた、女だ。か細い腕がこちらに差し出された気がした。僕はつい身を乗り出した。
 気が付くと、足元に砂の感触があった。まさかと思ってふりむいた。砂!砂!前も後ろもテレビ画面?
 信じがたい事実と焼けつく日光が僕の思考を停止させた。倒れると思いきや、目の前にあの女が現れた事でかろうじて踏み止(とど)まった。
 女は、美人だった。僕の目をじっと見、そしてにっこり笑ってくれた。こんな体験は初めてだった。だから、その時僕は嬉(うれ)しさで気付かなかったのだ。女の目に潜む物悲しさに。
 女は、僕の手を取って砂漠をただただ歩いた。砂が目に入ったのに気を取られていると、それこそテレビで見たようなアラビア風の宮殿の中にいた。女は、僕にここで暮らすよう言った。不思議と、現世の事を考えられなかった。
 「そうだな、行くあてもないし……」
 気が付いたらそう答えていた。それから、僕と女は結ばれた。おいしい食事、豪華な宮殿、そして何よりこんな僕の事を一心に愛してくれる絶世の美女。そんな極楽のような場所では時の流れも速く、気が付けば僕は、約三年の日々をそこで過ごしていた。
 ある夜、僕は聞いた。
 「僕と君とはこんなに愛し合っているのに、僕はまだ君の名前を知らない。こんなバカな話があるだろうか?」
 女は少しうつむき、そして言った。
 「そうですわね。今夜があなたの『決断の日』でした。わたしの名前はNo.19356……どうかよろしくお願いします。私を……」
 次の瞬間、僕はあのテレビの前にいた。何もかも元通りだった。テレビの表示以外は……
 『モニターにご協力いただきまして真(まこと)にありがとうございます。つきましてはアンケートの方を提出していただきたいのですが、その前に。貴方(あなた)がもしこの・商品を気に入られた場合、通常購入の半額で手に入れる事が出来ます。どうかご決断を……』

[2008年8月25日掲載]

Alicekara_1 いったいどうなるのか、と物語に引き込まれました。放送が終了したテレビに映る砂嵐(のような画面)からイマジネーションを広げ、遠い世界まで連れていってくれます。繰り返される「決断」という表現が面白い。

'08年8月「モニター募集の広告を…」
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灰色の箱

入選作品猪田 直人さん 20歳 (京都産業大工学部3年)

■8月の書き出し
 モニター募集の広告を目にして、軽い気持ちで応募してしまった。それがどんな仕事なのかも確かめずに。

 その後、夏休み前の試験を、徹夜と講義ノートと友情のおかげで、何とか手ごたえを得ることができた。その慌(あわただ)しさの中で、応募したことを忘れていたとき、バイト雑誌をベッドで眺めていると、携帯がメール着信の音をたてた。簡潔だった。本文が「モニターに採用されました。明日、弊社の商品と説明書が郵送されます。詳しいことは説明書をよくお読みください」バイト雑誌を放り出して、寝た。
 翌日に届いたダンボール箱の中身は、よくわからない黒いものだった。ダンボールを漁(あさ)っていると説明書という文字が見えた。引っ張り出してみると、気が抜けた。一枚なのだ。中身を要約すると、黒いものは幸運を呼び寄せる物体らしく、一緒にいて欲しいらしい。一週間で得られた、幸運な出来事を同梱(どうこん)している紙に書き、封筒にいれて送ればいいらしい。報酬はその黒い物体、と一日一万円。全額が前払いでダンボールに入っていた。
 つまり、さぼっても金が入るということか。が、モニターは少なかったはずなので、さすがにバレるだろうし、罪悪感もある。それは一辺が10cm程度の立方体で、結構重い。直接持ち歩くのは難しいので、鞄(かばん)にいれていくことにする。まずは、スクラッチ。五枚買って千円。結論からいえば全部はずれ。やっぱりな、と思いながらも次は競馬。単勝でオッズの一番低いのに、九千円。本日だけで一万円。外れていれば、ご利益なしの紛(まが)い物。残りの六万円を有効利用させてもらおう。競馬の結果は、はずれ。紛い物決定。
 翌日からは、バイト雑誌を流し読みしつつ試験明けの遊びに興じる。戦友たちとゲーセン、ショッピング、カラオケと遊びまくる。その時に、幸運というのだろうか? ゲーセンでお釣りの取残し、欲しかったお買い得商品、カラオケの一時間無料サービスというのは。残りの一週間も、小さな幸せが続いた。それらを箇条書きにして適当にまとめて郵送。結論は、効果有。
 その後、バイトでお金を貯(た)め、夏休みの最後の週、悲劇が起った。空き巣に入られたのだ。バイトで稼いだお金が消えた。
 傷心のまま警察を呼ぶと、黒い物体を持ってないかと聞かれた。置き忘れていた黒い物体を探すが、無い。そう言うと警察官は痛ましげに顔を歪(ゆが)ませて、衝撃の告白をした。黒い物体は発信機、盗聴器だったらしいのだ。なんでも、この物体をモニターに送り、小さな幸せをわざと感じさせ、黒い物体を所持させておき、家の状況を知り、空き巣に入るという。その時に黒い物体諸々も回収するので跡が残りにくく、捕まえることができないという。
 自分では小さな幸福の箱を掴(つか)んだつもりだったが、不幸の黒い箱を掴まされていたというわけだ。

[2008年8月18日掲載]

Alicekara_1 語り手のもとに送られてきた黒い物体は何なのか? 「一緒にいて欲しいらしい」というのも面妖です。やがて明かされる衝撃の事実は……。夢のない真相のようですが、この作品の変わった味は読後も残ります。

'08年8月「モニター募集の広告を…」
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野球が上手くなる薬…

入選作品中根 香織さん 20歳 (尾道大芸術文化学部2年)

■8月の書き出し
 モニター募集の広告を目にして、軽い気持ちで応募してしまった。それがどんな仕事なのかも確かめずに。
結果、ものの見事に一杯食わされた。
 正直なところ、俺はうんざりしていた。たとえ我が愛(いと)しの教え子たちのお悩み相談だとしてもだ。
 「やかましい。お前らもう受験生だろうが。進路相談じゃないなら出てけよ」
 「先生、それでも顧問ですか。俺ら騙(だま)されたんですよ」
 思わず、溜(た)め息が出る。全く嘆かわしい。本当ならすぐにでもグラウンドに出て部員たちの練習を見たいのに、あいにくと今日は進路相談室の当番になってしまった。そのくせ訪れる奴(やつ)らときたら、これか。
 「野球が上手(うま)くなる薬、なんて、真っ当な治験のモニターならやるわけないだろ。引っかかった方が悪いんだ」
 「知らなかったんですって。でも、会場でそれを聞かされたとき、本当に期待したんですよ。詐欺ですよお」
 ……二の句が継げない。教師たるもの何か策を講じるべきなのだろうが、胡散臭(うさんくさ)すぎて関わりたくないというのが本音だった。「とっとと部活に行かんとグラウンド百周」の言葉に、詰めかけていた三人はあっさり従った。
 それを見送り、パソコンの前に座る。暑い盛りに、冷房の効いた心地よい室内にいると、何だか無性に不健康な人間になった気がした。早くグラウンドに出たい。
 ――野球が上手くなる薬、か。そんなものがあったら、とっくに俺が使ってるっての。そう、甲子園を目指して無我夢中だった、あの頃に……。
 ピロン、と電子音。新着メールだ。思い出を振り切り、向き直る。件名は「モニター募集」。タイムリーだな。
 『野球が上手くなる薬を飲んでみませんか?』
 ドクン、と心臓が鳴った。反射的にメールを閉じた。
 削除しようとして、でもなぜか手が動かなかった。本文の冒頭の文句が蘇(よみがえ)る。野球が上手くなる薬――。
 「俺はそんなものを欲しがったりしない。今も、昔も」
 声に出して言う、はっきりと。それを合図に、パソコンの電源を切り、立ち上がってドアへ向かう。電気もエアコンも切る。廊下に出て、窓から見えるグラウンドに部員たちの姿を見つけると、そっと心の中で話しかけた。
 お前らも、ああいうのが欲しくなったりするのかよ。野球が上手くなる薬、だってさ。ばかばかしいよな。やっぱり野球は、自分との勝負だろ?
 靴を履き換え、眩(まぶ)しすぎて真っ白な日向(ひなた)へ飛び出す。俺の姿を見つけた少年たちが手を振ってくる。
 嘘(うそ)じゃない。でも強がりだとは自分でもわかっていた。今日そうしなかったように、いつになってもあのメールを削除することはできないことを、俺は知っている。だから、頼むよ。お前らは、そんなもの要らないってきっぱり撥(は)ねつけてくれよ。自分自身の力で、泥まみれになって、強くなってくれよ。祈るように、そう思った。
 俺は手を振り返し、そして「グラウンド十周」と言い渡すために、大きく息を吸った。

[2008年8月11日掲載]

Alicekara_1 題名を見た瞬間、「これは面白そうだな」と思いました。そんな便利なものがあるわけないし、薬で何かうまくなっても仕方がないのですが。語り手である先生の人間臭さ、生徒たちへの愛情がうまく描かれています。

'08年8月「モニター募集の広告を…」
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家族(かぞく)モニター

入選作品綿野 恵太さん 20歳 (大阪大文学部3年)

■8月の書き出し
 モニター募集の広告を目にして、軽い気持ちで応募してしまった。それがどんな仕事なのかも確かめずに。

  「妹」という言葉をそのとき、はじめて知った。まず、漢和辞典を検索して「妹」の読み方を調べることから始めた。「いもうと」「いもうと」と何度も口ずさんでみると、自分がまるで「兄」(あにと読む)になったように思えてくる。そして僕は彼女を思い出す。
 僕と彼女は「同じ親から生まれた年下の女の子」(『広辞苑第八版』より)という関係ではなかった。彼女と初めて会ったのは、説明会のときだった。
 都内のビルの1室でおこなわれた説明会には僕を含めて4人の男女がいた。
 国家再興事業の一つである<家族(かぞく)再生プロジェクト>だった。僕たち4人はそれぞれ「父(ちち)」「母(はは)」「息子(むすこ)」「娘(むすめ)」の役割を与えられ、「家族」として生活をする。その生活がどのような変化をもたらすのか、調査するものだと告げられた。「家族」という聞いたこともない言葉に、僕は戸惑いつつも契約書にサインした。二人の女性達はその場で承諾したが、中年の男性は辞退したようで、実験開始日には違う男性が来ていた。
 「お父さん」(「おちちさん」ではなく「おとうさん」と読むらしい)と中年男性を呼び、「お母さん」(おかあさん)と中年女性を呼び、そして最後に彼女のことを「妹」と呼ぶ練習をした。
 「本当は、兄は妹のことを妹とあまり呼ばないらしいんですがね。名前とかだそうですが」と担当者は僕に苦笑しながら言った。「まあ、秘密保持の問題もあるんで、妹と呼んでください」
 僕と彼女とは年齢が近かったせいか、仲良くなった。よく話をしたり、いっしょに出かけることもあった。僕を見る彼女の笑顔は忘れられない。彼女のおかげでモニターの生活は楽しく過ごせた。週一回の血液検査や常に撮影され監視されているのは嫌だったけれど。
 ところがある日、彼女が車に轢(ひ)かれた。病院に僕たちが駆けつけた時にはもう意識はなく、そのまま眼(め)を開けずに死んでしまった。涙が出た。動揺する僕たちに担当者はプログラムを続行することを告げた。日程は変わらないままだったが、プログラムに葬式(そうしき)、四十九日の法要(しじゅうくにちのほうよう)という儀式が新たに付け加えられた。
 事故の調査によれば、彼女が突然車道に飛び出したようで、車に搭載された回避機能も間に合わなかったらしい。
 プログラムが終了すると、中年の男女はそそくさと帰っていった。僕はその場にいた担当者に聞いた。
 「妹が死んだのもプログラムの一環ですか?」
 「私には答える権限がございません」
 そう言って担当者は深々と頭を下げた。

[2008年8月4日掲載]

Alicekara_1 家族という制度が解体した世界の物語です。国家さえ一度なくなっているのかも。どれぐらいの未来なのでしょう。時代背景の説明をばっさり切り捨てる一方、細部をしっかり描いてあとは読者の想像にゆだねています。

'08年8月「モニター募集の広告を…」
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