選考を終えて(9月)

 牢は、いかなるものなのか? 囚われている語り手と監禁している者の素性は? 語り手は、どのようにして脱出をはかるのか? その顛末は? 作者が考えるべきポイントがはっきりとした課題だったと思います。

 応募作は、シリアスなものとコント風のものとに分かれました。秀作が多かったのは前者です。

 「実験囚〇三四号」は、やや窮屈なのが惜しまれます。枚数に制限があるためで、作者には気の毒でした。倍の長さがあれば、より迫力のある小説になっていたでしょう。シビアな制約の中でがんばってくれました。

 最も過酷な牢は、「石」で描かれたものでしょうか。想像すると息苦しくなってきます。が、「この石の身体こそが俺の魂の牢獄なのだ」という一節は、肉体に閉じ込められて生きる私たちのことを指しているようでもあります。

 さて、来月は暗号の物語ですよ。

'08年9月「罪なくして牢に…」
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Kasaku2_4芦田 恵さん 20歳(京都大文学部3年)

9月の書き出し
 罪なくして牢につながれたわが身。嘆いてばかりいても仕方がない。ここから脱出する方法を考えるのだ。
それにしてもこの押しつぶされるような圧迫感には耐えられない。ここに押し込められて以来、のびのびとした気分を味わったためしがない。しかも外の様子が全くわからないときたもんだ。真っ暗な狭い中で、音もほとんど聞えてこない。そしてそれがいつ終わりを迎えるかも分からないのだ。それに、この独房は年々ごく僅(わず)かだが狭くなってきているようだ。よく考えれば当たり前のことなのだが。
 自分自身の悪事によってこうなったというならまだ我慢のしようもあるだろう。しかし、他のやつの企(たくら)みによって陥れられたとあっては腹の虫がおさまらない。
 ……時間を持て余すと、つい過去の意味もない愚痴を言ってしまうようだ。もっと現実的に現状から脱出する方法を模索するほうがよっぽどマシであることは十分わかっている。だが、こうでもしないととても正気を保っていられそうにないのだ。しかし……それにしてもあいつめ、とんでもないことをしてくれた。
 「あいつ」とは忘れもしない俺の好敵手。少なくとも俺はそう思っていた。しかし先方にとって俺はただの憎むべき敵でしかなかったらしい。俺の不運につけこんでありもしない罪をなすりつけやがったのだ。
 ここに閉じ込められて一千年、俺は現状打開の方法を考えつづけている。独房は随分狭くなってきている。しかしよいアイデアはまだ浮かんでいない。俺は閉所恐怖症ではないが、そろそろ恐怖と焦りがつのってきた。しかし、考えれば考えるほど浮かぶものといえば憎いあいつへの恨みとわが身の不運への嘆きだけだ。これだけは時が癒してくれるようなものではない。
 ……全く俺もタイミング悪く死んだものだ。折しも世界で天災が続いたとかで死者が続出し、死後の裁きもてんてこ舞いだったらしいが、裁判官どもめ、証人に呼ばれたあいつの言う事だけを鵜呑(うの)みにしやがった。おかげで俺は生前悪人だったことにされ、生まれ変わった後も暗黒に閉じ込められ、その上いつ果てるともしれない命を与えられたのだ。一方であいつはまたのうのうとヒトに生まれ変わりやがった。
 俺は今や、随分と角の取れた石になってしまった。内面のとげとげしさとは関わりなく見た目は変化していく。生まれ変わったばかりのときは角張って大きかった身体も風化して丸く、小さくなった。この石の身体こそが俺の魂の牢獄なのだ。
 そろそろ俺の気も狂いそうになってきている。俺も自分が石に生まれ変わって始めて石に魂があることを知った。すると、俺みたいに頭がおかしくなりそうになったり、あるいは古参のやつなら既に狂ってしまったのもあるだろう。あの時蹴飛(けと)ばした道端の石ころも、庭に置いてあったあの石も……ぞっとしないが、まあ、俺に外の様子はわからないし、わかったところで石の心までは読めないのだ。

'08年9月「罪なくして牢に…」
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実験囚〇三四号

Kasaku2_4熊澤 辰徳さん 20歳(神戸大理学部3年)

9月の書き出し
 罪なくして牢につながれたわが身。嘆いてばかりいても仕方がない。ここから脱出する方法を考えるのだ。

 あの出窓はどうだ。錆(さ)びた鉄格子つきの窓枠に手をかけると、抜けかかった歯のようにぐらついた。案外容易に出られるかもしれない。三日で窓枠と硝子(ガラス)は外れるようになった。
 巡視燈が頭上を通り過ぎたのを見計らって硝子と枠を外し、狭い窓をくぐり、元通り嵌(は)め直した。すぐさま外壁を登り、外の暗い地面に飛び降りた。その瞬間、俺に自由が訪れた。拍子抜けするほどあっさり脱出が成功し、不気味ですらあった。とにかくその日は路傍の草むらに身を隠し、朝まで静かに仮眠をとった。
 起きて腹が減り、飯のために街を歩いた。しかし当然ながら無一文の脱走囚に食物を与える人はおらず、しかもなぜかどこの入口でも指紋認証が求められ、家や店の中に入ることすら拒否された。草むらは見かけるが、作物がありそうな田畑はなかった。そして奇妙なのは、誰一人として俺のことを避けたり通報したりせず、一通行人として扱われていることだった。念の為上着は脱いでいるが、縞(しま)模様のズボンと小汚い身なりで気付かれそうなものだが。追っ手の気配もなく、段々怯(おび)えることなく街を歩けるようになった。
 しかし何もできなかった。所属も所有物もない俺を受け入れてくれる場所はなく、全ての家や店は壁で囲まれていた。休める公園もベンチも見当たらず、空になった腹を抱えながら死人のように歩き続けた。俺の自由は道にしかなく、安息の場所のために彷徨(さまよ)った。
 ずっと歩いていると、民家の壁に凭(もた)れかかって座りこんでいる脱走囚を見つけた。もはや人というより物体に見えた。背筋が震えた。未来の自分がここにいる。血の気が引き、来た道を急いで逆走した。
 家や店の壁が、牢獄の壁と重なった。壁の外には自由があった。しかし自由以外には何もなかった。全ての壁が俺を拒絶し、道に追いやった。街全体が巨大な牢獄に思えた。実際そうなのかもしれないし、だから誰も連れ戻しに来ないのかもしれない。
 行き交う人には壁の中に入る権利がある。一度牢獄を脱した俺にそんな権利は与えられていない。ふらふらになりながら、必死にもといた牢獄へ向かった。
 白く高い壁が見えて安堵(あんど)した。自由がなくても、あの中でなら生きられる。刑が重くなるのは仕方がない。牢獄に辿(たど)り着き、外壁を一周して入り口を探したが、なかった。この壁をよじ登ろうにも、妙につるつる滑って敵(かな)わなかった。やばい。体中の細胞が震えだした。
 泣き叫びながら拳で壁を殴りつけた。嫌だ、頼む、入れてくれ! こんな自由なら要らない、中に入れてくれ! 俺が何をしたって言うんだ、助けてくれ!
 渾身(こんしん)の力で叩(たた)きつけた拳が鈍い音を立て、激痛が腕を支配した。喘(あえ)ぎながら牢獄を仰ぐと、外壁に設置された監視カメラが目に入った。

'08年9月「罪なくして牢に…」
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脱出せよ

入選作品塩谷友望(ゆみ)さん 17歳 (関西大第一高3年)

■9月の書き出し
 罪なくして牢につながれたわが身。嘆いてばかりいても仕方がない。ここから脱出する方法を考えるのだ。

 「変なナレーションを入れるな!」
 軽く頭を叩(たた)かれた。目線を上げると、情けないほど引きつった顔があった。兄はゴキブリが大の苦手だ。現に今も、母が掃除機で吸っている間中こうして柱の陰から遠巻きに見守っていた。僕は別にあんな虫くらい平気だが、兄に付き合って一緒に隠れている。
 唸(うな)る掃除機が哀れなゴキブリを飲み込んだ後も、兄のこわばった表情は解けなかった。一仕事終えた顔でスイッチを切る母に、うわずった声を浴びせる。
 「まだ切るな! アレが中から這(は)い出てくるかもしれない。紙パックごと取り出して捨ててくれ」
 もしかして、僕が言ったことを気にしているのだろうか。兄を横目でうかがう。母が言われた通りにしようとすると、今度は狂ったような悲鳴を上げた。
 「やめろ、外でやってくれ! 頼むから!」
 「うるさいよ、兄ちゃん」
 そんなに怖いなら、自分の部屋に避難していればいいのに。彼は何かと隙(すき)の多い母の手腕を疑い、わざわざここで監視しているのである。確実に敵を仕留めたと、その目で確認しなければ安心できないらしい。
 ――鈴木君のお兄さんって、かっこいいよね。
 ふと、ちょっと前にクラスの女子に言われたことを思い出した。昼休み、せがまれて携帯の写真フォルダを披露していた時のことだ。
 「それに話を聞いてると、優しい人みたい」
 笑顔にどきりとした僕は、何か兄のマイナス面も教えてやらなければ、という衝動に駆られた。でもプーだよ? でもマザコンだよ? 何を言ってやろう。口をついて出たのは些細(ささい)なことだった。「でも兄ちゃんって、虫が怖いんだ。特にゴ…キブリとか。家に出た日にはもう、取り乱してやかましいったら」キブリの部分は小声になった。女の子を配慮してのことだ。
 彼女はこの情報を喜んだ。「かわいいお兄さん。いつか会ってみたいなあ」そして、声を立てて笑った。
 しかしこのままでは、彼女が偶然にでも兄に会う日は永遠に来ないだろう。なんともったいないことだ。
 結局、掃除機の紙パックは無事ビニール袋に詰められ、囚人は牢に閉じ込められたまま、翌朝のごみ収集車を待つばかりとなった。リビングに帰還した兄の、ものすごくホッとした表情がちょっと笑えた。
 あの虫はもう自力では外には出られないだろう。が、兄は違う。家は牢屋ではないのだ。出られないと嘆く意味が分からない。それとも、僕が分からないだけで、この周囲には見えない檻(おり)が張り巡らされているのだろうか? 家から出たら、ゴキブリのように叩き潰(つぶ)されるとでも言うのか? ――ここ最近、僕は自分のことを棚に上げて、真剣に兄の将来を憂えていた。

[2008年9月29日掲載]

Alicekara_1 色々な監獄にまつわる作品が寄せられましたが、「牢」をこんなふうに捉えたものは他にありませんでした。それが単なる思いつきに終わっていない。虫の運命と対比させることで、皮肉の利いた小説に仕上がっています。

'08年9月「罪なくして牢に…」
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母の判決

入選作品綿野恵太さん 20歳 (大阪大文学部3年)

■9月の書き出し
 罪なくして牢につながれたわが身。嘆いてばかりいても仕方がない。ここから脱出する方法を考えるのだ。

 運がよかった。急須から緑茶を注ぎ込んだ瞬間に母が激怒していたら、ぼくは命がなかっただろう。全身にやけどを負い、死んでいたかもしれない。
 脱出は不可能だった。湯呑(の)みの底はつるつるとしていて、よじ登ろうとしても滑り落ちてしまう。
 そんなことより、僕はこの眠気をどうにかしたかった。緑茶がなんともいえない最適な温度だったから。しかし、「湯船の中で寝たら、溺(おぼ)れ死ぬよ」という母の言いつけを思い出し、頬(ほお)をつねったりしながら、茶の表面にぷかぷか浮かんでいた。
 気付くと、丸く縁取られた外の世界から、巨大な母の顔がこちらを覗(のぞ)き込んでいた。
 「わたしを裏切ったね」と母は大きく口を開けて言った。僕は身震いをした。母の口が嫌いだった。歯が全(すべ)て抜け落ち、口の中には舌と歯茎だけがみえる。まるで深海生物のように見えた。
 父が死んでから、母は急激に老化していった。以前の母とは別人のようになった。見るに見かねた僕は母と一緒に住もうと決心をした。妻も僕の考えに賛成し、「大丈夫よ、お義母(かあ)さん、きっと喜んでくれるわよ」と言ってくれたものだ。
 しかし、現実は違った。母は僕らの申し出を拒絶し、説得を試みる僕らを一喝した。
 「この裏切り者め!」
 その瞬間、僕はテーブルの上にあった湯呑みの中に吸い込まれた。湯呑みの底深くまで僕は沈んだ。必死にもがき、ようやく顔を突き出して、息を吸った。すると、食器が割れる音と同時に、妻の叫び声が聞こえたのだった。
 巨大な母はきっと僕が眠らないか監視している。僕は不安になり、必死に妻を呼んだ。
 「あんたの嫁さん……食べちゃったよ」と母は言い、舌と歯茎だけの口を大きく開けて笑い始めた。
 「シチューにした、刺身にした、切り落とした指を庭に植えて、嫁のなる木を育てようと思う」とまで言い始める。嘘(うそ)だと否定するように僕が首をふると、「自分の目で確かめろ」と母の口が大きく開き、湯呑みごと僕を飲み込んだ。舌と歯茎の間を僕は滑り落ちていき、ぽっかりと開けた空間に行き着いた。
 確かに嫁のなる木があった。何人もの体躯(たいく)をつなぎ合わせたような幹、分岐していく枝の付け根には、まるで腋(わき)のように毛が生えている部分もあり、枝は先端に近づくにつれて、上腕から前腕の形に変化していく。そして、その先には妻が実っていた。妻は逆さ吊(つ)りの状態で力なくぶら下がり、眼は虚(うつ)ろだった。僕は妻の名前を叫んだ。妻はなにかを言おうとして身をよじり、やっとのことで口を開いた。しかし、妻の口からは黒く変色した長い舌が吐き出されただけだった。

[2008年9月22日掲載]

Alicekara_1 この母の恐ろしいこと。「ぼく」は、なにゆえかくも厳しい罰を受けなくてはならないのでしょう。これも人の心の形なのか。私たちはただ、悪夢の中でもがく「ぼく」を見守るだけです。これが小説だ、と思いました。

'08年9月「罪なくして牢に…」
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私はキュウリが嫌い

入選作品西岡拓真さん 23歳 (会社員)

■9月の書き出し
   罪なくして牢につながれたわが身。嘆いてばかりいても仕方がない。ここから脱出する方法を考えるのだ。

   オープンドア付きの青い天井、部屋の外を見渡せる透明の壁、茶色のふかふかの床。よくもまあ、こんなご丁寧に部屋をご用意してくださったものだ。
   しかし、二十センチ四方の限られたスペースでは、思うように動き回ることができない。自分の体の何倍もの高さのある壁を見上げてみる。生い茂る泥臭き青臭き草むらに思いを馳(は)せながら、どうしても自力ではこの壁の向こうに行くことができないということを思い直す。やはり私にできることは、ひたすら外へ出られる時を待つのみなのだろうか。
   それにしても人間の固定観念ほど恐(こわ)いものはない。こうだと決めたらこうというきらいがある。私はキュウリが嫌いだ。もう一度言う。私はキュウリが嫌いだ。にもかかわらず、この部屋ではキュウリしか食べられない。なぜなら私たちはキュウリを好むと人間が固定観念を持っているからだ。ひたすらキュウリが餌としてこの部屋に放り込まれる。その度に緑の丸太にたじろぐ。しかし私も意地だ。生きるためにキュウリをひたすら食ってやる。もうこうなったら、体の色を茶から緑に変えてやろうか。そして驚かしてやろう。
   そんなことを言っている場合ではない。もう耐えられない。ここから脱出したい一番の理由は食である。ああ、早く外に出たい。早く外に出てたらふく幼虫と蟻(あり)を食べたい。
   いかに目の前に聳(そび)える透明の壁を乗り越えようか。壁をつたっていくか、跳躍力に任せるか。両方の策、眼前の壁では期待できない。
   思案するうちに日が暮れた。この暗澹(あんたん)たる気持ちを羽音に込めて響かせてみる。リリリリリ。リリリリリ。リリリリリ。人はこの羽音を鳴き声と見なし、風流を感じながら愛(め)でる。草むらや岩陰から奏でられる羽音はシンフォニーとなり、人の心を通って吹き抜ける。奏でることとその羽音を愛でる人の情感、嫌いではない。よし、部屋の外へ思いを馳せながらも、今夜は羽音からメロディーを響かせて、秋の訪れを人の心まで届けようか。リリリリリ。リリリリリ。リリリリリ。
   「とても寝れたもんじゃないよ。一晩中鳴かれたら騒音にさえ思えてくるわ。外行って放してきなさい」
   「えー、せっかくちゃんと餌もあげて育ててるんだよ。もっと飼いたいよ」
   「いいえ、いけません。来週からはハムスター飼うでしょう」
   「ちぇっ」
   今夜は妙に私への視線が熱い。やはり私の奏でる羽音に心を奪われているのか。しかも部屋が動かされている。外の世界が近づいてきた。これも私への慈しみゆえのご厚意か。私は元気よく後足を蹴(け)って部屋を飛び出す。最後にもう一度、リリリと響かせて。

[2008年9月8日掲載]

Alicekara_1 文章に力があり、作品から圧力を感じます。「罪」や「牢」で始まる物語にふさわしい。人間ならざるものを語り手にした応募作がたくさん寄せられましたが(たいていそれがオチになっている)、この作品が格段によかった。

'08年9月「罪なくして牢に…」
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安全地帯

入選作品橋本涼子さん 16歳 (大谷高校2年)

■9月の書き出し
 罪なくして牢につながれたわが身。嘆いてばかりいても仕方がない。ここから脱出する方法を考えるのだ。

 部屋は…もとい牢は綺麗(きれい)で快適で牢とは言いにくいものだ。フローリングの床に最新のテレビ、最新のトイレにベッドそしてシャワールーム。これが牢と言えるだろうか。いや、牢なのだ。その証拠にいきなり不似合いな鉄格子がついている。そこから見えるのはアスファルト剥(む)き出しの壁だ。はてさてどうやって脱出するか。ひととおり部屋中を見てみたが抜け出せそうな所はない。すると足音が聞こえた。
 「夕食です」
 見張り番の人がご飯を持ってきた。痩(や)せたやる気のなさそうなやつだ。
 「どうしてこんな所に入れられなきゃいけないんだか」
 私はベッドに寝そべり、呟(つぶや)くように言った。
 「何故(なぜ)って仕方ないんですよ。国が決めた事ですから」
 そう言って彼は去った。
 国が決めた? どういうことだ。私は今日の昼頃、未来のこの世界へタイムトリップし、歩いていたところいきなりここへ連れて来られた。タイムトリップは先日祖父が開発したもので存在は誰も知らない。タイムトリップがバレたはずもない。なら…どうして。ここは快適だが早く抜け出して戻らないと。よし、夕食を取りに来る時に抜け出す事にした。
 「食器を取りに来ました」
 キィ…と音を立てて鉄格子が開く。地面に置かれたプレートを取ろうとしゃがんだところを…ガツン。
 ふぅ。空手がこんなところで役に立つとは。
 暗い廊下はいかにも牢という気がした。私の牢は一番奥だったため、先に見える階段まで他の牢を見て歩いた。牢は両隣を空けるようにして人がいた。中には家族でいる牢もあった。
 突如サイレンの音が聞こえた。…バレたか?
 『侵入者! 侵入者!』
 ? 脱獄者の間違いではないのか。とにかく早く逃げ出さなくては。
 階段をのぼり、いくつかの扉があったが鍵は内側からだとすぐに開いた。また、私はさっきの見張り番の服を着ており、その上警備員は慌てふためいていたためなんとか脱出できた。
 しかし、この町は活気がない。酒場のみに明かりがついている。ボロボロの紙切れが足元に落ちていた。
 《連絡;国民の皆様、我が国は牢獄に囚人が入りきらなくなったため逆にします。皆様はセキュリティー万全の快適な部屋の中で安心して暮らせます。》

[2008年9月1日掲載]

Alicekara_1 逆転の発想。いかにもショートショートらしいオチです。主人公が脱出(いや、侵入)したところは「活気がない」そうですが、どんな様子か気になります。もう少しくわしく書いてもらいたかったなぁ、と思いました。

'08年9月「罪なくして牢に…」
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