一念
芳田 直征さん 20歳(徳島大工学部2年)
■10月の書き出し
会場にかけつけると、もうなつかしい顔がそろっていた。久しぶりの同窓会だ。
などと頭の悪いイメージトレーニングを繰り返していた私だったが、今晩の会合は不参加と相成った。数日前から続く熱に浮かされ、おかげでその旨をメールで伝えるのさえ億劫(おっくう)だった。予定開始時刻から凡(およ)そ三十分。すっかり酣(たけなわ)といった時分だろう。
汗で濡(ぬ)らした蒲団(ふとん)が気持ち悪いのを気にしつつ、携帯電話を何の気なしに眺めていた。期待していたわけではないが誰からも連絡がないのは少々寂しかった。
抗(あらが)い難い眠りの底へと落ち、指をすり抜けた電話が床と接触する音がやけに遠くに聞こえた。
翌日の目覚めは久しぶりに気分がよかった。頭は濁りなく働き身体(からだ)も軽い。昨日までの振るわなさが嘘(うそ)のように爽快感(そうかいかん)で満たされている。
時計代わりに携帯電話を見ると既に正午を回っており暫(しば)し呆(あき)れたが、そこでメールの受信を確認した。
『お疲れさまです。昨日は楽しかったよ。また機会があれば飲もうじゃない』
『昨日はお疲れ。またいつか』
『たまには仕事を忘れて飲むってのもいいね。本当によかった。それにしても、熱が出て来られないとか云(い)ってたのにバッチリ来てたじゃねえか。寧(むし)ろ昨日一番テンション高かったんじゃねえの? ま、何にせよ楽しかったからいいけどな。近いうちにまた連絡する』
三件のメールはそれぞれ友人と幹事から同窓会の感想だったのだが……。二人は身内への一斉送信だったから気にもしなかったが、三件目、幹事から来たメールに眼を疑わずにはいられなかった。
私は昨日絶対家にいた。
しかし、私は彼の言葉を鵜呑(うの)みにすれば参加していたらしい。まさかあんな状態で外出してしまえば、それは自殺に近い。
……私ではない私が私を演じ私の友人に私でない私を私たらしめたようだった。そういう事だろう。こんがらがってきた。何だこの状況は、わけがわからない。
思考が縺(もつ)れた自分を落ち着かせようと深く息を吐いたところで電話がメロディを響かせ、玄関チャイムが間抜けに鳴った。扉の向こうからも着信音が聞こえた気がした。
幹事からの電話を受け、どうやら冷静になりきれていなかった。同時に二人の相手をしようと玄関の扉に手を掛けた。
厭(いや)という程見知った顔が、電話を耳に当てて聳(そび)えていた。口が開き何かを呟(つぶや)きそれは聴こえなかったが理解できた。
「ただいま。私」こいつはそう囁(ささや)いたのだ。
そして私に重なった。



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