一念

Kasaku2_4芳田 直征さん 20歳(徳島大工学部2年)

10月の書き出し
 会場にかけつけると、もうなつかしい顔がそろっていた。久しぶりの同窓会だ。
 などと頭の悪いイメージトレーニングを繰り返していた私だったが、今晩の会合は不参加と相成った。数日前から続く熱に浮かされ、おかげでその旨をメールで伝えるのさえ億劫(おっくう)だった。予定開始時刻から凡(およ)そ三十分。すっかり酣(たけなわ)といった時分だろう。
 汗で濡(ぬ)らした蒲団(ふとん)が気持ち悪いのを気にしつつ、携帯電話を何の気なしに眺めていた。期待していたわけではないが誰からも連絡がないのは少々寂しかった。
 抗(あらが)い難い眠りの底へと落ち、指をすり抜けた電話が床と接触する音がやけに遠くに聞こえた。

 翌日の目覚めは久しぶりに気分がよかった。頭は濁りなく働き身体(からだ)も軽い。昨日までの振るわなさが嘘(うそ)のように爽快感(そうかいかん)で満たされている。
 時計代わりに携帯電話を見ると既に正午を回っており暫(しば)し呆(あき)れたが、そこでメールの受信を確認した。
『お疲れさまです。昨日は楽しかったよ。また機会があれば飲もうじゃない』
『昨日はお疲れ。またいつか』
『たまには仕事を忘れて飲むってのもいいね。本当によかった。それにしても、熱が出て来られないとか云(い)ってたのにバッチリ来てたじゃねえか。寧(むし)ろ昨日一番テンション高かったんじゃねえの? ま、何にせよ楽しかったからいいけどな。近いうちにまた連絡する』
 三件のメールはそれぞれ友人と幹事から同窓会の感想だったのだが……。二人は身内への一斉送信だったから気にもしなかったが、三件目、幹事から来たメールに眼を疑わずにはいられなかった。
 私は昨日絶対家にいた。
 しかし、私は彼の言葉を鵜呑(うの)みにすれば参加していたらしい。まさかあんな状態で外出してしまえば、それは自殺に近い。
 ……私ではない私が私を演じ私の友人に私でない私を私たらしめたようだった。そういう事だろう。こんがらがってきた。何だこの状況は、わけがわからない。
 思考が縺(もつ)れた自分を落ち着かせようと深く息を吐いたところで電話がメロディを響かせ、玄関チャイムが間抜けに鳴った。扉の向こうからも着信音が聞こえた気がした。
 幹事からの電話を受け、どうやら冷静になりきれていなかった。同時に二人の相手をしようと玄関の扉に手を掛けた。
 厭(いや)という程見知った顔が、電話を耳に当てて聳(そび)えていた。口が開き何かを呟(つぶや)きそれは聴こえなかったが理解できた。
「ただいま。私」こいつはそう囁(ささや)いたのだ。
 そして私に重なった。

'09年10月「会場にかけつけると…」
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休日出勤

Kasaku2_4上田 夏実さん 18歳(四条畷高3年)

10月の書き出し
 会場にかけつけると、もうなつかしい顔がそろっていた。久しぶりの同窓会だ。そこは洒落(しゃれ)た雰囲気のピザ専門店で、壁はガラス張りになっている。
『もう少し早く連絡できないのだろうか。いつもギリギリの時間になってからくるなんて!』
 僕は上司に軽く腹立たしさを感じつつ、この日だけは、そうで良かったのかもしれない、と少し思った。時計を確認すると、時刻は十九時四十五分。その時まで後、七分だ。
『まだ集合時間の十五分前だというのに、こんなに集まらなくても……』
 僕は苦々しい気持ちで、しかし表情には出さず、周囲を眺めた。十人前後はいるだろうか。その中に一人、僕の視線を吸い付ける人物がいた。ワンピース姿のその女性は学生時代、密(ひそ)かに憧(あこが)れていた、彼女だった。
 不躾(ぶしつけ)な眼差(まなざ)しを感じてか、彼女もこちらを見る。
「あ、永山君」
 にっこりと微笑(ほほえ)みながら、懐かしい名前を発した。
「どうしたの?全身真っ黒じゃない。ネクタイまで」
 不思議そうな顔で、彼女は「僕」を覗(のぞ)き込む。永山と呼ばれた僕は、どうしたものかと戸惑いながら、何とか平静を保って答えた。
「いや、今日はちょっと仕事があって」
 詳しい内容を外部に漏らすことは禁じられているため、ここまでしか返すことができない。
「そっか。社会人だものね。ここにいるとつい、学生気分に戻っちゃう。私も休日出勤とかあるのに」
 深く詮索(せんさく)することもなく、彼女は納得したように頷(うなず)く。その会話の合間に、またチラッと時計を見る。現在、十九時四十九分。
「随分と、来るのが早いね」
 不自然に思われまい、と無理に会話を進める。
「そういう永山君だって。久々だから、楽しみにしてたのよ。でしょ?」
 何の疑いもなく、にこやかに同意を求める声。
「そう、だね……」
 答えつつも、思わず店の前にある道路へと目を向けてしまう。向こうの方から、トラックがだんだんと近づいてくるのが見える。今は五十一分。残り、六十秒をきってしまっていた。
 彼女はそんな僕の様子に気付いた風もなく、少し照れたように続ける。
「十年もたったし、時効だから白状しちゃうけど、実は私ね、高校生のときに、永山君のこと―――」
 トラックはもう、僕らの眼前に迫っていた。

 結局、続きは聞けずじまいだった。
 けれど、もはや「永山」でなくなった僕にとっては関係のないことかもしれない。

'09年10月「会場にかけつけると…」
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明かしばなし

入選作品川上 智史さん 23歳 (大阪大外国語学部4年)

■10月の書き出し
 会場にかけつけると、もうなつかしい顔がそろっていた。久しぶりの同窓会だ。
 「遅い、遅い」の声に、「すまん、すまん」と答えながら腰を下ろす。岩づくりの椅子は円形に並べられており、私の左手にはイヌが、右手にはサルが、それからぐるりと赤黄青の鬼が三十人ほど、そこに座っている。キジは私の肩の上だ。
「桃太郎さん、あんたもずいぶんと老けなさったなぁ!」長の赤鬼が言った。
「うん、そうだな」と私は答えた。「あんたらは全然変わらんように見えるよ」
「まぁ、そうだろう。わしらは鬼だ。あんたらよりもずっと長く生きる。そうそう老いちゃかなわんよ」
「ほら、きび団子を持ってきた。“日本一”のをな」
 そう言って私は、きび団子の入った袋をみんなに回した。鬼の子の中にはきび団子を知らない者もいて、珍しそうに眺めたり、においを嗅いでみたりしている。
 それを見てサルは、「これは旨いものだぞ。何たっておれら三匹は、このきび団子一つに釣られて桃太郎の、ここ鬼ヶ島への旅にお供することにしたんだからな」と笑った。「若いがゆえに、なお旨かったのだ」とイヌもそれに続き、キジはキジで、「食い気は偉大だ。食い気がなければ桃太郎は生まれなかったのだからな」と好きなことを言う。
 そこに鬼たちも乗っかってきて、「それではわしらも食い気のおかげで助かったようなもんだな! 桃太郎さんがいなければ、わしらは本当に退治されていたかもしれん!」と黄色が、「まぁ、その食い気のおかげで誤解を受けることになったんだがなぁ!」と青色が、それぞれ大声を張り上げた。
 本当に、今だから笑って話せるお話だ。当時の人々の混乱具合といったら酷いものだった。それはそうだろう。あるとき急に、「食い物をくれ!」とあの大声で、異形の者たちが海を渡ってぞろぞろやってきたのだから。人二人分の身の丈に、にょきりと突き出た牙、頭には角……お世辞にも、「親しみやすそうなやつ」だなんて言えない。私自身、鬼の噂を聞いて、「いざ、鬼退治!」と意気込んでいたものだ。
 それがどうだ、実際に会ってよくよく話を聞いてみると、鬼たちにまつわる悪行話はみな人間達の勘違いから生まれたものだった。農耕も酪農もできない岩だらけの島に住む鬼たちは、人々の食べる様々なものに思い焦がれ、それをどうにか分けてもらおうと人里を訪れた、というのが事の真相。金銀財宝に関しては、鬼に怯えた人々からの一方的な献上物であったらしい。だから万事は円満解決。今なお語り継がれる『桃太郎伝説』は、「静かに暮らしていきたい」という鬼の意向を受けて私がでっち上げたものだ。
 まぁ、考えてもみてほしい。小僧とイヌとサルとキジとが、果たして鬼に敵うものだろうか。いやはや私も若かった。

[2009年10月26日掲載]

Alicekara_1昔話「桃太郎」の登場人物らが集まった同窓会。イヌ、サル、キジのみならず鬼までも加わった情景が愉快です。そこで今明かされる意外な事実とは……。なごみました。物語が物語を生む、とはこういうことですね。

'09年10月「会場にかけつけると…」
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同争会

入選作品福本 裕章さん 22歳 (龍谷大経営学部4年)

■10月の書き出し
 会場にかけつけると、もうなつかしい顔がそろっていた。久しぶりの同窓会だ。
どうやら俺が最後の参加者だったらしく、席についてまもなく当時の担任の先生による乾杯の音頭がとられた。
「カンパーイ!」
 カラカラに渇いたのどにビールを流し込もうと、ジョッキに口をつけようとした時、かすかな刺激臭を感じた。中身をそばにあった観葉植物にぶちまけてみると、観葉植物はみるみる朽果てていった。
 腹もかなりすいていたので、ポテトをつまもうと手を伸ばすと、チクッとした。指先には小さな穴が空き、血がにじんでいる。ポテトが盛られた皿からサソリがかさかさと這い出てきた。空のジョッキを叩きつけ、粉々になるまですり潰す。
「ごめん、ちょっとトイレ」
 個室に入り、便座に座ってワクチンを腕に注射していると、急にウォシュレットが作動した。すばやく便座から立ち上がると、すさまじい勢いで水が噴射され、天井に穴が空いた。
 トイレから戻ると、電気が消えていて、店内は真っ暗だった。暗視ゴーグルをつけて見てみると、旧友たちが銃を構え、こちらに照準を合わせている。
 パン!パパパパパパン!
 乾いた音が店内に響き渡る。一瞬早く身をかわしたおかげで体に穴は空いていない。
「誕生日おめでと~!」
 店内が明るくなり、盛大な拍手が巻き起こった。どうやらあの銃撃がクラッカー代わりだったようだ。
「みんな、覚えていてくれたのか」
 言い知れぬ感動を覚えていると、この会の幹事であり、親友の高橋がラッピングされた箱を手渡してきた。
「あけてもいいか?」
「もちろん」
 丁寧にラッピングをはずしていく。見た目以上に複雑に包装されていて、あけるのに時間がかかる。中からカチコチと音がなっているが、プレゼントは時計だろうか。
 ようやく中身にたどり着き、箱を開けると、いかにもな時限爆弾が現れた。残り時間はあと5分。
 専用の工具を使い、配線を切断していく。最後に赤と青の線が残った。間違えれば爆発する。一瞬考えた後、赤を切る。……爆弾は解除されたようだ。
「あれ~? お前、ラッキーカラーは青って言ってなかったっけ?」
 高橋が意外そうに言う。
「カミさんが妊娠してるんだ。だから元気な赤ん坊を授かるようにって意味で赤を切ったんだよ」
「安産祈願ってわけか」
 二人で肩を組んで笑い合う。
 ふと店の奥に目をやると、防護服を着た店員が異様に大きいケーキを運んで来るところが見えた。

[2009年10月19日掲載]

Alicekara_1同窓会でルール無用の「同争会」をやるんですね。ただ、それだけの話。先生もまじえて恐ろしいことをしているのに、みんな楽しそうです。何といっても最後の一文がおかしい。まだまだオチずに続くみたいですよ。

'09年10月「会場にかけつけると…」
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ある夕刻

入選作品千葉 茂雄さん 18歳 (アルバイト店員)

■10月の書き出し
 会場にかけつけると、もうなつかしい顔がそろっていた。久しぶりの同窓会だ。
「おっ、君島じゃないか」
「遅かったな。お前で最後だぞ」
 くちぐちに彼を歓迎する。この会に来て良かったと思った。
 彼はいまや、一流企業の社長である。実はこの日も、多忙を極める君島氏は政財界の重鎮が集まるパーティに参加する予定があった。
 しかし彼が今日、参加を選んだのはこの同窓会だった。
 日本を牛耳る重要人物たちとの接触数を増やし、交流を温めておくのは仕事のうちである。だからパーティをキャンセルしたわけではない。
 現在では、代理出席サービスというものが存在している。
 同時にいくつものパーティやイベントに出席して、多くの有力者とコネクションを強めたい欲深な企業家。パーティという言葉を聞くのも嫌だという人嫌いの芸術家。人の機嫌を取るテクニックが苦手な学者。どうしても他に用事のある者。
 そういう人々のために、特殊メイクを駆使し「偽者」を派遣してくれるサービスがあるのだ。彼らは顧客そっくりに化け、本人と他の出席者のデータを頭に叩き込み、参加者たちと適当に話を合わせて、彼らの機嫌を取っていてくれる。
 要人や有名人は、サービスに金を払うだけでわずらわしい人付き合いから解放され、しかもコネというメリットだけを手に入れることができるのだ。
 君島氏は政財界の豪華なパーティをサービスが提供する代理人に任せ、母校の同窓会に参加することを選んだのである。
 君島氏はぞんぶんに、彼らと思い出を語り合った。日本の最高学府に入学するために必死で勉強したこと。全力を尽くした野球部でのこと。友人たちが組んでいたロックバンドのこと。好きだった女の子のこと。
 彼らと語り合っていて、君島氏はまるで高校時代に戻ったように感じた。
 2時間程して、君島氏は立ち上がった。
「諸君。どうやらここの出席者は全員、わが社の社員のようだ。こんな同窓会にさえ、わが社のサービスが浸透していることが分かって、社長として大変うれしい。さあ、今夜はもう、わが優秀なる社員諸君の日ごろの勤務をねぎらう会としようじゃないか」
 同級生たちは歓声をあげてメイクを拭き取った。
 同窓会は一転、君島氏が代表を務める代理出席サービス株式会社の、懇親会となったのである。

[2009年10月5日掲載]

Alicekara_1同窓会やパーティというものを思いきり皮肉った作品です。君島が「この会に来て良かった」と思った本当の理由が最後に明かされます。そういう意味だったんですね。タイトルに面白みがないのがもったいない。

'09年10月「会場にかけつけると…」
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