限界への挑戦
國田 優美さん 19歳 (武庫川女子大文学部1年)
■12月の書き出し
待ちくたびれた頃に、やっとバスがきた。行く先の表示を見たら、「Xマス」となっている。手元のルーレットの数字を確認する。10だ。バスの表示もローマ数字のX=10。これだ。私をゴールへと導く方舟は。
私は借りていた小型のルーレットをスタッフへ返し、扉が開ききるのも待ち切れず、バスに飛び乗った。
55年前、私はこの「世界冒険者すごろく」に参加した。これはオリンピックのような企画だが、「全世界が会場」であり「参加は個人の自由」であり、「参加者の生命管理は自己責任である」という点では異なる。
世界各国をさらに小さな地域に区切り、それぞれを1マスとする。1から10までの数字が刻まれたルーレットを回し、止まったマスで課題を遂行するのだ。「冒険者すごろく」と銘打ってあるだけに、「石油を掘りあてろ」だの「新種の生物を発見せよ」だの、膨大な知識と労力、時間と金銭が必要な課題ばかり。しかもその資金は参加者負担なのだからたまらない。
未開の地で課題をこなせず亡くなった人もいるらしい。参加者はこうなることも覚悟の上だ。出発前に宣誓書だって書いたのだから。
このように危険が伴うが、私は参加した。若かったのだ。人と違うことがしたいと思っていた。辛く苦しい55年だったが、他人に比べれば、随分充実した人生を送ってきたのではないだろうか。
そしてとうとうこの日が来た。ゴールまで残り10マス、ルーレットの数字も10。この冒険にもやっと終止符が打たれるのである。苦労の後には楽しみがあるものだ、そうでなくてはいけない。ほら、そう言っている間にも、ゴール地点が見えてきた!!
――ゴールを迎えてから一か月が過ぎた。今までと比べて、何と早く時間の過ぎたことか。そして私は今、再び旅行鞄を手に空港へとやってきていた。
「では、『世界旅行すごろく』専用パスポートをお渡しいたします。決して失くさないように」
係員から注意を受けた後、私はルーレットを回した。 「世界冒険者すごろく」をクリアした者だけに参加が許される、「世界旅行すごろく」。世界旅行を安全に、じっくり、タダでできるのだ。このような特典がなければ、誰もあのような危険な企画には参加するまい。
「……二名様まで同伴可能ですが」
どなたかおいでで? と聞かれ、私は頷く。
「ええ、前回の冒険で。途中のマスに婚約者が」
「それはそれは。是非楽しんでいらして下さいね」
「はあ……」
笑顔のスタッフとは対照的に、私はやや浮かない顔で答え、徐々に速度を落とすルーレットを見つめた。 ――できれば、またXマスに止まってほしいものだ。そのくらいのペースで進まなければ、愛する彼女の待つマスまで、生きているうちに辿り着けるかどうか。
[2009年12月28日掲載]
Xマスをクリスマス以外のものに解釈する作品がいくつか寄せられましたが、この作品が一番スケールが大きくて、勢いがありました。気宇壮大なホラ話ですね。世界を駆け巡る「私」の旅は、まだまだ続きそうです。

村井 建太さん 24歳(大阪府立大大学院生命環境科学研究科)
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