檀上 翔さん 21歳
(愛媛大工学部4年)
■4月の書き出し
世の中には色々な学校があるものだが、その学校の風変わりなことといったらない。
何せその学校は、真空宇宙を航行してしまっている。
校舎をまるごと内蔵した宇宙船は、母星を目指して航行する。そしてその内部学校の生徒は、教官の指導のもと、母星再入植計画の最終調整に入っていた。
「良いかッ、我々は全国民から選出されたエリート先発隊だ! 二百年来の悲願達成は我々次第なのだ!」
そう、西暦二千五十年、人間の身勝手な発展により母星地球の環境は悪化した。宇宙に落ち延びた僅かな生物のみが現在もどうにか繁栄している。
その生物には僕達の先祖も含まれており、二百年たった今、子孫の僕達が第一期再入植隊として、母星への再入植を試みている。
教官曰く、母星での再繁栄は種としての宿願らしい。
だが、僕の願いとは相反する。健康状態が良好だったことが災いして候補生に選ばれてしまった僕には、母星に対する憧れも、二百年来の思慕の情も無い。
先祖にとって川のせせらぎや硬水の臭いが故郷だったように、何も無い真空こそが僕にとっては故郷なのだ。そんな僕が、何の懐かしみもない母星に対して、どんな希望を抱けるというのか。
母星突入の最終段階、反乱が自発的に発生する。
僕と同じ意思の者は意外に多かったらしい。いや、当然の数と規模か。僕達は生来、宇宙の子供だ。
反乱によって生じた隙を突き、僕達は学校から脱出する。無重力の部屋を全力で泳ぎ、酸欠直前、どうにか故郷へと通じる搬入ハッチへと辿り着いた。
奇跡か、慈悲か、ハッチは自ずと開放される。
「さあ、皆、故郷へと帰ろう」
船外は真っ黒い、僕達の故郷が広がっていた。
人類の地球再入植に先駆け、まず環境調節の済んだ土地に対して動植物の帰化が開始される。しかし第一期計画は悲惨な成績を残す。輸送や重力によるストレスのためか、多くの輸送生物が死んでしまったのだ。
特にメダカの被害は大きい。同種で傷つけ合う、容器から跳び出るといった特異な事例も報告されている。
ただし、地球に似せた環境で育成したメダカは比較的良好な数値結果を記録している。帰化生物の育成法改善に繋がる重要なデータとしてここに提示する。
僕達の先祖は過去二百年ほど宇宙で暮らし、百年前地上に戻って来た。しかしその際、宇宙での暮らしを忘れない者達がいたそうだ。彼等は現在も宇宙を遊泳しており、あの一番煌いている星が彼等なのだそうだ。
僕達メダカの伝承である。が、自然の川の中に住む僕にはその真偽を確かめる術はない。
しかし、宇宙が恋しかったなんて可笑しな話だ。
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