選考を終えて(5月)

 この書き出しに物語を続けるとすると、いくつかのパターンに分かれます。降りたホームで誰かと出会う、駅から出ていき見知らぬ町で何かを体験する、次の電車で何かが起きる等々。それぞれのパターンの応募作があり、楽しく読みました。比較的多かったのは、ホームで不思議な子供と会う話かな。中には「降りる駅をまちがえ、行き過ぎてしまった主人公」の話もあり、そんなふうにも解釈できるなぁ、と意表を突かれました。

 今月は十代の方からの投稿が多く、中身も大健闘でした。佳作の二編も、中学生と高校生の作品。

 「降り間違えた人のための店」は、そういう店のアイディアが素晴らしい。行こうとしても行けない、というのも不思議で愉快ですね。店でのやりとりにもうひと工夫あれば傑作になったかも(応募された形は改行がなかったので、改稿してもらっての掲載です。次回からは、するべきところで改行を)。

 「次の駅」は、きちんと怪談になってします。列車が進むにつれて主人公は破局へと近づいていく、というスリリングな構成がうまい。しっかりした文章ですが、もう少し整理すれば、たちまち作品の出来が一段上がりますよ。

'07年5月「降りる駅をまちがえた。…」
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降り間違えた人のための店

Kasaku2_4 横井 里紗さん 14
(大阪府豊中市立第十四中学校3年)


■5月の書き出し

 降りる駅をまちがえた。そう気がついた時、もう列車はホームを離れていた。

「あ~あ、やっちまった…」
 そんな言葉しか出なかった。久々に遠出しようとしたら、これだ。電車に乗ると、ほとんど降り間違える。しかも今日は乗り換える金も無い。
「はぁ」
 ため息をつきながら適当にブラブラ歩いていると駅を出てすぐに一軒の小さな店があった。看板を見て驚いた。
「降り間違えた人の店って、どんな店だよ…」
 看板の内容と店の雰囲気に誘われて店に入った。
「お、お邪魔しま~す」
 見た目のわりに中は綺麗だった。だが、店の中には大きい机が一つと椅子が二つしか置いていない。
「一体此処は何屋なんだ…??」
「此処は駅を降り間違いした人が来る店ですよ」
「…!!」
 いきなり声をかけられて勢いよく振り返る。いつから居たのだろうか、一人の女の人が居た。長い黒い髪を結って着物を着たふんわりとした雰囲気の人だ。
「貴方は、降り間違えたのですね」
 クスクス、と少し笑われた。
「さぁ、どうでしょうか…? もしかしたら、俺はそう偽ってるだけかもしれませんよ…?」
 自分でも大人でない、と思いながら言い返した。
「それは有り得ません」
  ……どういう意味だ?? 何故、有り得ないと言い切れる?? 俺の考えを察したかのようにその人は話した。
「此処は降り間違えた人しか入れませんから。間違わなかった人は入れないんです」
 益々わからなくなった。しかし、今一番気になっているのは「此処は何の店ですか?」と聞いた。しかし、「此処は降り間違えた人の店です」とキッパリ言われた。
 それでわかんないから聞いたのに…。
「はぁ…」
 またため息が出た。すると、外から雨音が聞こえてきた。
「本降りにならないうちにお帰りになったほうがよろしいですね」と言いながらその人は俺に何か持ってきた。
「お土産です。これは、幸せを呼ぶ風鈴なんです。もう貴方が降り間違えをしないように。それと、こっちは電車賃です」と俺に差し出した。
「これがないと帰れないでしょう?」
 何故そこまで状況知っているのか、と問いたかったがなんとなくやめた。
「じゃあ今度お返しに来ます」
「そうですね。今度また私の店に来れたら、お茶でもしましょう」
 その言葉を背にして店を出た。
 それからしばらくして、またこの店に訪れたが店は空き地になっていた。その時俺はあの人が言っていた言葉を思い出した。
『此処は降り間違えた人しか入れませんから。間違わなかった人は入れないんです』
 店に行く、という目的をもって駅を降りる俺は二度とあの店に入る事は出来なかった。あの風鈴を貰って以来降り間違える事もなくなった。

'07年5月「降りる駅をまちがえた。…」
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次の駅

Kasaku2_4 山本 健太郎さん 15
(大阪府立四條畷高校1年)


■5月の書き出し

 降りる駅をまちがえた。そう気がついた時、もう列車はホームを離れていた。
居眠りなんかするんじゃなかった。ドアが閉まりかけていたから慌てて飛び降りたけれど、僕の目的地はここより先にある。仕方なく僕は次の列車を待つことにした。駅の時計は午後八時を指している。この駅に降りたのは初めてのことだ。まわりは田んぼや畑ばかりでこれといったものはないし、駅自体も平々凡々な駅だった。そういう訳で駅に人はほとんどいない。いるのは僕と、異様な角度に腰が曲がったおじいさんだけだ。
 やがて列車がやって来た。乗客は見た限りではゼロ。僕とおじいさんが乗れば二人になる。僕は先頭の一号車に乗り、おじいさんも僕のすぐ後から乗り込んだ。
 列車が動き始めた。僕とおじいさんは向かい合うようにして座っていた。彼はずっと僕の顔を不思議そうに眺めている。僕は居心地が悪くなり、運転席に興味があるふりをして、目をそちらに向けた。
 前方の窓から見える景色はなかなかおもしろいものだった。列車が線路の上を走っているというより、線路が猛スピードで列車の下に飛び込んできているように見える。
 それを見ているうちにおかしなことに気がついた。いつも見慣れている景色ではない。
 乗る列車を間違えたのだろうか。いや、そんなはずはない。同じホームで乗ったのだから。そうは思っても恐しいほどに不安感がつのった。かといってあまりオロオロするのも格好が悪いと思い、平然とした顔をよそおった。
 それでもやはり耐えられなくなり、
「次の駅はどこですか」
 とおじいさんに尋ねてみた。
「そいつがいる時、わしらはいない。わしらがいればそいつはいない。さてそいつとは何だ」
 僕は驚いておじいさんを見つめた。
「そのなぞなぞの答えが駅の名前なんですか」
 おじいさんは妙な角度にうなずいた。
 その時、前方に不気味なトンネルが現れた。僕はそれの意味することが分かり、その場に凍りついた。恐怖が体を支配していた。
「そいつがいる時、僕はいない。僕がいればそいつはいない」
 その答えは「死」だ。

'07年5月「降りる駅をまちがえた。…」
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懐郷

Nyusen2橋本 仁美さん 19歳
(関西大政策創造学部1年)


■5月の書き出し
  降りる駅をまちがえた。そう気がついた時、もう列車はホームを離れていた。しまった、と思ったが、もう遅い。仕方なく、僕は次の駅まで歩くことにした。
  空は快晴で、うだるような暑さだ。僕はミネラルウォーターを一口飲み、汗を拭(ぬぐ)ってから歩き出した。
  次の電車はいつのことやら、辺りは見渡す限りの緑。僕は口笛を吹きながら、陽炎(かげろう)がもやもやとたちこめる線路に降りて、のんびりと空をあおいだ。
  昔、そういえば母さんによく怒られたな。「線路でば遊ぶような馬鹿モンは、家ば入れん!!」言うてな。僕が突然帰ってきたと知ったら、母さんはどんな顔をするだろうか。
  やっと目的の駅に着いた。家はすぐそこだ、懐かしい屋根が昔の面影のまま残っている。まわりの垣根は古くなった感はあるが、それでもその表情は優しい。
  庭には、僕の背丈ほどもある立派な向日葵(ひまわり)がいくつも咲いていた。向日葵がすごく好きだった僕のために、母さんは毎年たくさん植えてくれていたっけ。
  僕は裏の木戸から表に回り、勢いよく玄関を開けた。
「母さんただいま~、帰ってきたで!」
  返事はなく、しんとしている。時計のカチカチという音と、懐かしいホコリの匂(にお)い。よく足元を見ると、母さんの小さな花のついた靴がない。
  と、玄関にいつも置いてあった、ひしゃくとバケツもないことに気がついた。鍵をかけずに出て行くということは、すぐ近所のお寺まで墓参りに行ったようだ。事前に連絡もしていなかった僕が悪いのだが、なんとなく寂しい気持ちになった。
  家の中は、多少違ってはいるがほとんどそのままだ。僕はとりあえず、喉(のど)が渇いたので冷たい麦茶を一杯もらい、涼しい風の通るリビングにねっころがった。
  カチカチ、カチカチ。母さんはまだ帰ってこない。
「まったく、こーんなかわいい息子が来てやってるんに、あの母ちゃんはなんばしよっとね!」
  ここにいられる時間はそう長くはない、明日の朝には向こうに帰ってなければ。遅れるわけにはいかない。僕は仕方なく靴を履いた。家の匂いを、もう一度胸にありったけの力で吸い込む。よっしゃ。いつかはわからない、でも次母さんに会える時まで、頑張ろう。
  十二時のサイレンが鳴った。空はただとにかく青い。玄関をぴしゃりと閉めて、昔のように木戸までの飛び石をぴょんぴょん跳んでみた。ひい、ふう、みい。
「……馬鹿モンじゃけん、僕、ほんま馬鹿モンじゃけん。母さん、ほんま、こんな息子で……」
  木戸を強引に開けて道に出る。僕は全速力で走った。走って、走って、走って、涙が流れて、僕の体は青に溶けた。
  線路のわきには、不揃いな長い向日葵の束が、そっと置かれていた。

[2007年5月28日掲載]


Alicekara_1
 〈降りる駅をまちがえた〉を哀しい意味に解釈して、こうなったのですね。母さんのいない家の情景が胸にしみるようです。物語の背景を暗示する筆さばきも巧みで、文章が時々キラリと光っています。

'07年5月「降りる駅をまちがえた。…」
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こわい話

Nyusen2島田 麻琴さん 20歳
(追手門学院大心理学部2年)


■5月の書き出し
  降りる駅をまちがえた。そう気がついた時、もう列車はホームを離れていた。フェンス越しに外を見ても畑ばかりで、民家はずっと遠くに点在している。私以外で下車したのはたった一人、腰の曲がったお爺(じい)さんだけだ。彼に尋ねるしかない。
「お爺さん、すみませんが」
  彼は話を遮る様に私を睨(にら)むと、見た目からは想像のできない速さで無人改札から出て行った。しまった、気持ちは若々しい人だったのか。ああ、もう間に合わない。
  振り返って向こう側のホームを見ると、端のほうに今にも潰(つぶ)れそうな小屋があった。すがる思いで線路を渡り、腐りかけた戸を開けた。錆(さ)びた水道と、奥にもう一枚戸がある。神様仏様ありがとう。中へ駆け込み用事を済ませた。
  それにしても、外から見た感じ通りの気味の悪い場所だ。何か出たら嫌だな、と思いつつ個室から出ようとすると、本当に出てしまった。足元の真っ暗闇から、低い低い声で、
「許さんぞおぉぉ」
「ひいぃぃ」
        
  「お姉ちゃん、お姉ちゃん」
  気がつくと、小屋の外にいた。
        
  介抱してくれたお巡りさんに事の顛末(てんまつ)を話すと、駅の外へ連れ出された。木が生えて少し薄暗い所に何かの蓋(ふた)がある。お巡りさんはそれを開けて『許さんぞ』と叫んだ。
「あの便所の汲取(くみと)り口ですよ。子供の悪戯(いたずら)でしょう」
  なんだ、たったそれだけの事なのか。
        
  お巡りさんにお礼を言い、一軒の家へ向かった。気絶した私を見つけてくれた人にもお礼を言いたかった。『Xさん』という人らしい。
  Xさん宅の引き戸を開けると、あのお爺さんが出てきた。少し困った顔をしている。私も困った。気絶した私を見つけてくれたのかと尋ねると、こくりと頷(うなず)いたので、怒らせた時の事は触れずに、お礼だけ言った。お爺さんはますます困った顔になった。
  随分嫌われているようだ、早く帰ったほうがいいだろう。出ていこうとすると、背後から、あの、低い低い、女の声がした。
「お前が、お前が失礼なことを言ったからだぞ」

[2007年5月21日掲載]


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 のどかで、ほのぼので、ちょっとこわい。読み返してみると、オチを活かすためにテクニカルな書き方をしています。ラストで意表をつかれますが、読者よりびっくり仰天している〈私〉を想像するとおかしい。

'07年5月「降りる駅をまちがえた。…」
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欠落

Nyusen2西村 由希子さん 19歳
(立命館大文学部2年)


■5月の書き出し
  降りる駅をまちがえた。そう気がついた時、もう列車はホームを離れていた。「しまった」と舌打ちしたところで、状況は何も変わらない。それを瞬時に悟った僕は、すぐに時刻表へと足を向ける。
  腕時計を見て、正確な時刻を確認。そして、電車を三十分以上待たなくてはならないという、好ましくない事実を突きつけられる。だが、不満を並べたところで、今の自分には電車を待つことしかできない。
「本でも読んでいようかな」
  そう思い、鞄(かばん)の中から、買ってきたばかりの小説を読もうとした。
  ――あれ?
  買ったと思っていた本が、どこにもないのだ。懸命に探してみるが、求めている手応えはどこにもない。大方探し終えたところで、ぴん、と脳裏に閃(ひらめ)くものがあった。
  ――そうだ。読もうとして座席に置いたんだ。
  らしからぬ不注意だが、終わってしまったものは仕方ない。今ここで自分を罵(ののし)り続けても、得られるものは増えることはないだろう。座席には本を置かない。それを身をもって知れたのだから、いいだろう。そんな余韻に浸っていたところで、携帯電話が鳴った。
  発信元を見て、僕は目を丸くした。彼女からだ。
  ――どうしたんだろ? 何の用なんだろうか?
  疑問に思いながらも、「もしもし」と電話を受けた。すると、「今、何時だと思ってんの!」といきなり罵声(ばせい)が飛んできた。思わず耳から電話を離す。電話越しでも、彼女が柳眉(りゅうび)を逆立てて怒っているのが、目に浮かんでくる。
「何時って……何でいきなり怒ってるんだよ」
「忘れたの? 待ち合わせしてたじゃない!」
「待ち合わせ? 俺、そんなことは。ああ、そうか」
  全(すべ)てを思い出したが、もう遅い。彼女は苛立(いらだ)ちながら、「もう、いい!」と一方的に電話を切ってきた。もう一度かけ直そうとしたが、止めた。どうにもできない。元に戻せないことを悔いたところで、もうどうにも――あれ? 何だか、今日の自分は少しおかしい。諦(あきら)めがはやいというか、何だか拘(こだわ)りを持っていない。まるで、何かのネジが外れたみたいだ。
  おもむろに立ち上がったところで、袖口から何かが落ちた。カラン、という金属音がホームに響く。それを見た僕は、目を丸くした。
  螺子(ねじ)だ。螺子が落ちていたのだ。それを拾おうとして腕を伸ばすと、手首の辺りにぽっかりと穴が開いているのが見えた。丁度ネジが埋まるような、そんな大きさの穴。
  僕は若干驚いていたが、いつものように鞄の中からネジ回しを探し出すことにした。
「ああ……ちゃんと締めとかないとな」

[2007年5月14日掲載]




Alicekara_1
 かなり恐ろしい話ですね。前半から中ほどにかけては、語り手の心の動きをたどっていますが、後半になると一転して乾いた筆致になる。その転調の具合が効いていますね。読後感は、ひんやりとしてダークです。

'07年5月「降りる駅をまちがえた。…」
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約束の場所

Nyusen2中谷友香梨さん 16歳
(関西大学第一高校2年)


■5月の書き出し
 降りる駅をまちがえた。そう気がついた時、もう列車はホームを離れていた。
 何をやっているのだろうか。私はそう呟(つぶや)いてから、ため息をついた。
 やってしまったことは仕方がないので、私は近くの木でできたベンチに座った。見上げると、この駅の名前が書いてある板がつるされている。「波川駅」。それがこの駅の名前らしい。私が降りたかったのは、五つ先の「南川駅」だった。
 何で降りてしまったのか。それは簡単なことだ。地元へと帰る長旅に疲れてしまった私は、いつの間にか電車の中で寝てしまった。目を覚ますと、「……ナミカワ駅」と聞こえたため降りたのだ。でも違った。ここは約束の場所じゃなかった。
 この地域は、電車が一時間に一本なんてざらな世界だ。たぶん次の電車は、一時間以上後にならないと到着しないだろう。
「どうかされましたか?」
 上から声がした。見ると駅員が心配そうに私の顔をのぞいていた。
「降りる駅間違えちゃって。次の電車はいつになりますか?」
 私が尋ねると駅員は申し訳なさそうに、一時間半ぐらい後になりますね、と言った。一時間半後か……。
「私ね、約束してたんだ。十年後もう一度、秘密基地で会おうって。秘密基地に二時の約束なんだ」
 私は腕時計を見た。時刻は一時半。
「思い出すのが遅くて、さっきの電車でも間に合ったかどうか……。あぁ、ごめんなさい。仕事中なんですよね。大丈夫です、間に合わなくても実家に帰るつもりだし」
 私は涙をこらえながら言った。駅員はそんな私を見て、優しく笑った。
「この近くに海があります。綺麗(きれい)ですよ。気分転換に見に行ってはどうですか?」
 海か……。しばらく考えた後、私はゆっくりと立ち上がった。
     
 やってしまった。俺は小さく呟いて近くの木のベンチに座った。俺が降りたかったのは五つ前の駅だ。
 長旅の疲れで寝過ごしてしまった。あぁ、今日は大切なやつと会う約束しているのに。
「どうかされましたか?」
 上から声がした。見ると駅員が心配そうに俺の顔をのぞいていた。

[2007年5月7日掲載]

Alicekara_1
 柔らかくて不思議な感じに惹かれました。私が提示した書き出しをどう料理してもらっても自由なのですが、中谷さんは〈駅〉と〈まちがい〉にぴたりと焦点をしぼってくれました。それが功を奏しています。

'07年5月「降りる駅をまちがえた。…」
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