選考を終えて(2月)

 「おかしなものが写っている」といえば、まず心霊写真を連想しますよね。予想していたし、実際に寄せられた作品も圧倒的多数が幽霊を扱っていました。そうするとどうしても互いに似てしまうもので、幽霊から離れた作品のユニークさが目立つ結果となりました。まあ、今回に限らず〈不思議の物語〉にはよく幽霊が登場するのですが。「おかしなもの」って、無限に想像できますよ。

 「泣いた鬼狩」は、言うまでもなく童話「泣いた赤鬼」のもじり。2月であることを意識して書いてくれたのですね。「おかしなもの」に鬼を持ってくるとは思いませんでした。二人が哀しい結末を迎えるのは、宿命というものなのでしょう。

 「来襲」は、ショートショートのオチとしてはそう新しいものではありません。一つの定型とも言えますが、語り手たちと被写体の間で何があったのかについて想像する余地が大きく、そこがこの作品の旨味になっています。題名が意味深でいい。

 さて、次回はどんな不思議が集まってくるか。楽しみに待ちましょう。

'08年2月「友人は、表情を曇らせて…」
| コメント (0)

来襲

Kasaku2_4橋本 仁美さん 20歳 (関西大政策創造学部1年)

2月の書き出し
 友人は、表情を曇らせてその写真を差し出した。おかしなものが写っている、というのだ。
ばからしい、そう思いながらも僕は写真を覗(のぞ)きこんだ。
 見ると、僕と友人が枝を集めながらピースサインをしている写真だった。どうやらこないだ、みんなでキャンプに行ったときの写真らしい。
 おかしなところは一見なさそうだったが、友人の「ここ」と指す先を見て、僕は息をのんだ。僕らの背後にある雑木林の暗がりに、何か生き物が立っているのがはっきりと写っているのだ。
 「これさ、なんだと思う?」
 友人がため息をつきながら僕にたずねたが、僕もこんな生き物は見たことがない。

 手が二本、左右に胸の横っちょあたりから生えている。歩みは、明らかに二足歩行である。しかし熊のように毛むくじゃらではなく、つるつるとした体をしている。顔とおぼしき 場所には黒々とした目が二つあって、その上にはぼさぼさとした毛が生えている――。

 僕らはそのまま図書館に行って、図鑑を片っ端から借りた。そして二人で手分けして、古代の魚から空想上の妖怪まで、ありとあらゆる分野の生き物を調べていった。
 僕が五冊目の図鑑に手を伸ばした時、友人が「あ」と小さく悲鳴を上げた。
 「どうした?」
 そう言って僕が覗き込むと、その中には、恐ろしくその写真とよく似た生き物が描かれていたのだ。僕は手が震えた。友人は、今にも泣き出しそうな顔で僕を見ていた。
 「まだそうと決まったわけじゃない。生物の先生に見てもらえば、きっとわかるんじゃないかな?」
 僕はそう友人に提案し、二人で生物の先生の研究室に行った。僕らは先生に会うと、丁寧に、その写真のこと、そして図鑑で見た生き物のことを先生に説明した。
 すると先生はその写真をじっくりと眺めた後、一言おっしゃられた。
 「君たち、これは歴史が変わることになるかもしれない。大発見だよ」
 初めは怯(おび)えていた僕らだったが、先生の一言に急に誇らしい気持ちで胸がいっぱいになった。その生き物は怖いが、そんなのを発見した僕らってすごいじゃないか。

 翌週、僕らの写真の拡大図と大きな見出しが新聞の一面を飾った。

 「抹殺したはずの人類、生き残りか」

'08年2月「友人は、表情を曇らせて…」
| コメント (0)

泣いた鬼狩

Kasaku2_4中谷 友香梨さん 17歳 (関西大第一高校2年)


2月の書き出し
 友人は、表情を曇らせてその写真を差し出した。おかしなものが写っている、というのだ。

 「な、写っているだろ?」
 その写真は、ついこの間友達同士で旅行に行ったときのものだった。友人が言いながら指さしたのは、俺の幼なじみの額の部分。そこには小さな角が顔を出していた。
 「マジかよ?」
 集まったクラスメートは写真と彼を見比べ、冗談で「鬼だ、鬼だ」とからかう。俺は彼と目が合い、堪えきれない悲しさがこみ上げた。俺はその冗談に便乗することも、彼に近寄って慰めることもできずに写真から静かに遠ざかった。
 俺は『鬼狩』だ。いつどの家庭に生まれるかわからない鬼を、彼らが暴走する前に退治するのが仕事だ。使う道具は刀で、鬼と『鬼狩』にしか見えない。

 放課後、俺はいつも通り彼と一緒に家路につく。公園にさしかかったとき、長く続いた沈黙を切り裂いたのは彼の方だった。
 「僕を退治しないの?」
 心臓が大きく脈打った。あの写真を見てからずっと悩んでいたことを率直に聞かれたからだ。
 「写真に写るなんて思わなかったんだ。うっかりしてたんだよ、僕」
 「そんなことより、どうして逃亡しなかった?」
 そう、彼は俺が『鬼狩』であることをずっと昔から知っていたのだ。逃亡する時間はたくさんあった。なのに彼は俺の前から消えなかった。
 俺は彼に消えて欲しかった。俺の知らない町へと行ってくれれば、こんなに胸が締め付けられるような思いはしなかったのに。
 「逃亡? 友達から逃げるなんて。逃げる理由もないし」
 「ない? あるだろうが! 俺が自分は『鬼狩』だって言ったのは小学校の時だぞ。何で逃げないんだよ。俺は、お前を」
 退治なんてしたくない。
 「逃げようとしたよ。何度も。でも、どうしたらいいかわからなかった。毎日毎日、朝迎えに来ておはようって言ってくれる、そんな君から逃げることはできなかった」
 彼は笑って僕に銃口を向けた。これも俺の刀と同じで周りの人には見えていないだろう。
 「だから、思ったんだ。いっそ君と戦って、退治してもらおうって。勝手でごめん」
 彼は安全装置を静かにはずした。
 「頼む」
 「……いいんだな?」
 俺は震える手で鞘(さや)を握りしめた。

'08年2月「友人は、表情を曇らせて…」
| コメント (1)

写り込み屋

入選作品綿野恵太さん 20歳 (大阪大文学部2年)

■2月の書き出し
 友人は、表情を曇らせてその写真を差し出した。おかしなものが写っている、というのだ。
 写真を見た途端、「やられた」と私は叫んだ。写っていたのだ、写り込み屋が。「ついに来たか」と友人も力なくつぶやいた。
 近代ヨーロッパで写真が発明され、写真家として職業が確立された時に、写り込み屋は現れた。写真に文字通り写り込み、写真の価値を台無しにしてしまう。私達がコンテストに応募するつもりでいた写真は全(すべ)てだめだった。どの写真にも自信に満ちた表情でこちらを見つめる一人の男が写っていた。
 「どうして僕らなんだろう?」と友人は呟(つぶや)いた。この写り込み屋はおそらく愉快犯だ。お金目当てならもっと有名写真家のところにいくはずだった。それからというもの、僕たちの写真には必ず写り込み屋が写りこんでいた。コンテストに応募することが出来ず、友人は写真を撮ることを止めてしまった。
 しかし、ある日を境に写り込み屋が写真にいなくなった。どこにも写っていなかった。私は歓喜した。解放されたのだ。その直後のことだった。なんと私の作品がコンテストで金賞に選ばれたのだ。そこから、写真家としての人生は着実に進んでいった。次の年には日本各地で個展を開くことができた。個展は大変好評で、直後に世界各都市で個展を開催することが決まった。「そして、ついに、今日、この賞をいただけたのです」と最後にそう言って、私はスピーチを終えた。会場は割れんばかりの拍手。私の手には、国際的に認められた写真家に贈られるトロフィーが輝いている。授賞式後のパーティーでは、受賞者と選考員が記念撮影をするのがお決まりだった。選考員は一流の写真家、小説家、芸術家、建築家のみなさんだった。一列に並び終えた彼らはセンターのポジションに優しく、私を招いてくれた。
 「ハイポーズ」と写真をとろうとした瞬間、会場の入り口が騒がしくなった。見ると、一人の男が警備員に腕をつかまれながらも、突進してくる。「くやしいな、ちくしょう」と叫んで、私のほうに向かってくる。突然の乱入者に無数のフラッシュがたかれた。「おれだよ、おれ。この野郎、裏切りやがって」
 『授賞式乱入者は世界的な写り込み屋……逮捕されたのは世界的な写り込み屋、A氏であった。A氏は写り込み屋として活動し、つい最近では映画、テレビをターゲットとする映り込み屋としても活動していた。犯行動機は受賞者に対する一方的な恨みを持っていた模様である』
 胸倉を掴(つか)まれている私と、今にも殴ろうとする友人の写真が新聞に載っていた。決定的な瞬間を逃した私は写真家として失格だった。また、単に写されてしまっただけの友人も写り込み屋として失格だった。世界的な写真家と世界的な写り込み屋の世紀の対決は両者ともに失格という無残なものだった。

[2008年2月25日掲載]



Alicekara_1
 冒頭から引き込まれました。写真を台無しにする愉快犯の写り込み屋とは。よくこんなものを思いつきましたね。その奇想をフルに活かし、紙の上で存分に遊んでくれました。作者の非凡なセンスに驚くばかりです。

'08年2月「友人は、表情を曇らせて…」
| コメント (0)

未確認飛行物体

入選作品井上萌さん 13歳 (大阪府門真市立第四中学校1年)

■2月の書き出し
 友人は、表情を曇らせてその写真を差し出した。おかしなものが写っている、というのだ。
 彼はカメラマンであり、空の写真をよく撮っている。僕はその写真を受け取り、見た。きれいな夜空の写真だった。しかし、左の方に星に交じって、何かが写っている。
「UFO……?」
「やっぱりお前もそう思うか?」
 そんなはずは無い。僕はこういう非科学的なことは信じないほうだった。
「いや、そんな大袈裟(おおげさ)な。ちょっとゴミが写っただけさ。何も心配することはないよ」
 僕は少し笑いながら言った。
「お前もそんなこと言うのか? これはどう見てもUFOだろう? 俺(おれ)はもうどうしていいのか分からない! 何か不吉なことが起こるんじゃないかと心配で夜も眠れないよ」
 僕は苦笑いを浮かべた。
「別に信じる、信じないは勝手だよ。お前はUFOを信じる、僕はそれを信じない。それにUFOごときで、不吉なことなんて起きないさ」
 「それよりさ」と、話題を切り替えた。早くこの話題を終わらせたかった。そして、もうこの話はするはずがなかったのだが。
「じゃあそろそろ時間だし帰るわ」
 彼はそう言って腰を浮かせた。随分長い間話していた。外はもう真っ暗だ。
「じゃあ、また」
 お互いそう言うと、彼は背を向けて帰っていった。
 ふう、と意味も無いため息をついて、部屋に戻った。すると、あのUFOの写真が置いてあった。あれ? 忘れて帰ったのかな?
 僕はもう一度その写真をじっくり見つめた。
 やはり、これは、星でも、そしてゴミでもないだろう。明らかに円盤の形をした、「UFO」なのである。本当にこの世にUFOなど存在するのだろうか。
 そこまで考えてやめた。僕がそんなこと一人で考えたって答えが出る訳が無い。今の僕には夕飯を食べることのほうが重要だ。
 次の日の朝、僕はいつものように、テレビのスイッチを入れた。ニュースを見るのが日課だ。するとこんな文字が飛び込んできた。
「速報! UFO墜落か!?」
 そんなばかばかしい。確か昨日もそんなこと言ってるやつがいたな……? リポーターはまだ続ける。
「今来た情報によりますと、この未確認物体に人が下敷きになり、死亡したようです。身元は……」
 その名前を聞いて呆然(ぼうぜん)となった。昨日、うちに来ていた友人の名前だったからだ。

[2008年2月18日掲載]



Alicekara_1
 13歳でなくても、これだけ書ければ大したもの。UFOを撮ったからといって、不吉に思う人はいません。なのに結果は……。友人は、なぜかわかっていたんですね。いったい落ちてきたのは何なのでしょう?

'08年2月「友人は、表情を曇らせて…」
| コメント (0)

ドッペルゲンガー

入選作品塩谷友望(ゆみ)さん 16歳 (関西大第一高校2年)

■2月の書き出し
 友人は、表情を曇らせてその写真を差し出した。おかしなものが写っている、というのだ。
 「これ絶対ヤバいよ。特にこの青白い手の気色悪さ。これ取り憑(つ)かれてんの俺(おれ)だよね、隣の田中じゃないよね? もう駄目だ……今日から夜トイレ行けねー」
 早口でまくし立てられたせいで半分以上聞き取れなかったが、震える指先が示すものを見れば、言いたいことは大体想像がつく。先日の修学旅行で自分が取り、昼休みに配った写真の一つ。写っているのは身を寄せ合ってバカ笑いする学生四人。その中で、一人の肩に人間をドロドロに崩したようなものがべったり張りついている。恐怖におののく彼を、俺は最初の内こそ親身に相手していたのだが、次第に面倒になって来て「そろそろ家帰らないと」とそそくさ逃げ出してしまった。
 早足で教室を出れば、そこへ待ち構えていたかのように別の友人が現れた。ただならぬ気配を漂わせつつ、ちょっと来てくれ、と手招く彼のもう一方の手には、先程の友人と同じ写真が握られていた。
 「俺はとんでもないものを見つけてしまった。未確認飛行物体、つまりUFOだ」
 俺はとても奇妙な顔をしていただろう。だが彼は友人の反応など正直どうでもいいようで、宇宙人にさらわれることの危険性についてとうとうと語り始めた。
 二人目からも逃れた後、間髪入れずに三人目が、宝くじでも当てたような顔をして待ち伏せていた。興奮もあらわに、やはり同じ写真を取り出す。
 「み、見ろよこれ。ユニコーンだぜ? いやあ、まさかあの伝説の生物がこの世に存在したなんてなあ!」
 見ると、画面上端の方に青空にまぎれて米粒大の白い物体がある。目を凝らして見てみれば、それは羽根の生えた馬だった。友よ、それを言うならユニコーンではなくペガサスじゃないか? そんな疑問を差し挟む猶予も与えず彼は喋(しゃべ)り続ける。どいつもこいつも、自分が喋りたいばかりで人の話は聞こうともしない。
 本気で言ってるのか、お前は今年でいくつなんだという言葉を何度喉元(のどもと)で飲み込んだか分からなかった。
 友人たちをまいた後は、まっすぐ帰途についた。俺は電車に揺られながら――顔がにやけるのを止めることが出来なかった。全く、こんなにうまくいくとは思わなかった。最近のCG技術は本当に素晴らしい。というかあいつらは大丈夫だろうか。あれは、ちょっとしたいたずら心で自分が細工したものなのだ。満足感に浸りつつ、懐から加工前の元の写真を取り出して眺める。そして、ふと気づいた。そういえば、この時セルフタイマーの類は使わずに、自分がこの手でシャッターを押したはずだ。それなのになぜ、ここには自分を含めた四人全員の姿が揃(そろ)っているのだろうか……?
 電車がひときわ大きく揺れ、呆然(ぼうぜん)としていた俺はたたらを踏んだ。血の気の引いた顔で凝視する写真の中で、俺が歯を見せて愉快そうに笑ったように見えた。

[2008年2月4日掲載]



Alicekara_1
 短い枚数の中に、たくさんの不思議を埋め込んでくれました。起承転結がきれいに整った作品です。写真の描写が、ちゃんと怖い。最後の一文など、堂に入ったものです。作者は、どんどん腕を上げていますね。

'08年2月「友人は、表情を曇らせて…」
| コメント (0)