休日出勤
上田 夏実さん 18歳(四条畷高3年)
■10月の書き出し
会場にかけつけると、もうなつかしい顔がそろっていた。久しぶりの同窓会だ。そこは洒落(しゃれ)た雰囲気のピザ専門店で、壁はガラス張りになっている。
『もう少し早く連絡できないのだろうか。いつもギリギリの時間になってからくるなんて!』
僕は上司に軽く腹立たしさを感じつつ、この日だけは、そうで良かったのかもしれない、と少し思った。時計を確認すると、時刻は十九時四十五分。その時まで後、七分だ。
『まだ集合時間の十五分前だというのに、こんなに集まらなくても……』
僕は苦々しい気持ちで、しかし表情には出さず、周囲を眺めた。十人前後はいるだろうか。その中に一人、僕の視線を吸い付ける人物がいた。ワンピース姿のその女性は学生時代、密(ひそ)かに憧(あこが)れていた、彼女だった。
不躾(ぶしつけ)な眼差(まなざ)しを感じてか、彼女もこちらを見る。
「あ、永山君」
にっこりと微笑(ほほえ)みながら、懐かしい名前を発した。
「どうしたの?全身真っ黒じゃない。ネクタイまで」
不思議そうな顔で、彼女は「僕」を覗(のぞ)き込む。永山と呼ばれた僕は、どうしたものかと戸惑いながら、何とか平静を保って答えた。
「いや、今日はちょっと仕事があって」
詳しい内容を外部に漏らすことは禁じられているため、ここまでしか返すことができない。
「そっか。社会人だものね。ここにいるとつい、学生気分に戻っちゃう。私も休日出勤とかあるのに」
深く詮索(せんさく)することもなく、彼女は納得したように頷(うなず)く。その会話の合間に、またチラッと時計を見る。現在、十九時四十九分。
「随分と、来るのが早いね」
不自然に思われまい、と無理に会話を進める。
「そういう永山君だって。久々だから、楽しみにしてたのよ。でしょ?」
何の疑いもなく、にこやかに同意を求める声。
「そう、だね……」
答えつつも、思わず店の前にある道路へと目を向けてしまう。向こうの方から、トラックがだんだんと近づいてくるのが見える。今は五十一分。残り、六十秒をきってしまっていた。
彼女はそんな僕の様子に気付いた風もなく、少し照れたように続ける。
「十年もたったし、時効だから白状しちゃうけど、実は私ね、高校生のときに、永山君のこと―――」
トラックはもう、僕らの眼前に迫っていた。
結局、続きは聞けずじまいだった。
けれど、もはや「永山」でなくなった僕にとっては関係のないことかもしれない。

コメント
とっても面白いお話でした!
投稿: 杏里 | 2009/10/30 17:17:36