モノクロの空のもとで

Nyusen2大澤 拓司さん 22歳
(大阪経済法科大法学部3年)


■11月の書き出し

 この三日間、夢を見た。どうやら続きものの夢らしい。いったい何を意味しているのか?
 夢の中の私はとても幼く、白いワンピースに、黒いテカテカと光沢のある靴を履いている。私の隣には男の人が立っていた。とても背が高い。それとも、私が小さかったから、そう思ったのだろうか。
 男の年齢は30代前半くらいで、黒い縁のレトロなデザインの眼鏡を掛けていた。表情は、はっきりとは分からない。夢は、いつもこんなだ。よく見てみると、男の足元に飛行機があった。ゴム動力の飛行機だ。
 その時、気づいた。この夢は、モノクロなのだ。だから、靴も眼鏡も、真っ黒に見えたのだ。それに気づくと、少し怖くなった。
 その時、突然、頭の中でハウリングが起こった。
 頭蓋の裏の、それよりずっと奥の奥。暗闇にベットリと住み付いた痛み。体が震える。眩暈(めまい)がする。吐き気がする。私が横たわる地べたがモノクロの空と入れ替わろうとしている。
「人は、傷ついても強くはなれないよ」
 すぐ近くで黒縁眼鏡の男の声がする。いつの間にか、私の体は、男に支えられていた。
 心に溜まっていた涙が、その声に揺さ振られて零(こぼ)れだした。私には見えなかったけれど、きっと、瞳だけでは間に合わなくなって、耳からも零れていただろう。
「どうすれば強くなれますか?」
 クル、クル、クル、クル、クル…。
 地べたに置いていた飛行機の機体が小刻みに左右に揺れ、プロペラが回転し始めた。夢マジックだ。綺麗に貼り付けられた羽が剥(はが)れないか、心配になる。
「君が望むのなら」
 男の言葉に急(せ)かされるように、飛行機がモノクロの空に飛び立った。
 そこで、この夢は終わる。
 続きを思い出そうとする度に、如何(どう)してか悲しくなってしまってそれきりになる。
 化粧が落ちるから泣くのは我慢して、窓の向こうの夕陽に染まった空を眺めているうちに、夢の意味よりも、あの飛行機の行方のほうが気になってきた。私は下を向いて少し笑った。とても不思議だ。今の今まで、あんなに悲しかったのに。あんなに苦しかったのに。もう別の事を考え始めている。それも、飛んでいった飛行機の行方だ。
 もう一度、窓の外に目を向けた。オレンジ色の空が広がっている。飛行機は、今も、あのモノクロの空を飛んでいるだろうか。

[2006年11月27日掲載]

Alicekara_1
 未整理の文章も目につくのですが、全体に漂うみずみずしい憂愁と希望――若さを買います。それを夢に現れたおもちゃの飛行機に託したのは見事。感情を単純に割り切らない書き方にも好感を持ちました。

'06年11月「この三日間…」
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選考を終えて(11月)

 今月は思わせぶりでミステリアスな書き出しでしたが、モチーフが夢なので〈よくある不思議の物語〉になってしまいそうです。チャレンジャーの皆さんは、それぞれ知恵をしぼって、発想を広げてくれました。応募作の中に同じネタが二つとなかったのですよ。きっと何編かはアイディアがかぶるだろうな、と思っていたのですが。

 佳作の二編も、いい味です。

 「ある日クマさんがやってきた」は、すっとぼけた作品です。「正直に言おう。大変怖い」は非凡。この語り口は、なかなかのものです。馴々しくて、不気味で、それでいて愛敬のあるクマのキャラクターが光っています。オチがないのがオチ、なのですが、「で、最後はどうなるんだろう?」という期待にもう少し応えてもらいたかった。

 「ハッピーバースデー」は、途中でいきなりサンタクロースが登場します。「11月なのに、それはフライングだろ」と思っていたら、「微妙な季節」の伏線だったのですね。そこまで計算に入れていたとは。「布袋の中はこれまで刈り取った生首でいっぱいに違いない」とか思う「俺」も変なのですが、いい奴のようです。湿っぽく書かなかったのが成功しています。

 入選作および佳作の並べ方について、ひと言。選者の評価が高いものから順に発表しているわけではありません。趣向やテイストが近い作品が続かないようにした上で、「まずこれを読んでもらって、次にこれがきて、それからこうきて」と、読者の興味を引くようにアレンジしています。ですから、入選作・佳作をすべてまとめて、〈今月の不思議の物語〉という本を作っているつもりなのでした。気分は編集長ですね。

'06年11月「この三日間…」
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ある日クマさんがやってきた

Kasaku2_4 西村  由希子さん 19歳
(立命館大文学部1年)


■11月の書き出し

 この三日間、夢を見た。どうやら続きものの夢らしい。いったい何を意味しているのか?
その内容とは簡潔明快にまとめると着ぐるみのクマだ。一日目はクマが自分の周囲で盆踊りをしていた。二日目はクマが猛ダッシュで追いかけてきた。逃げまくったのを覚えている。三日目はクマと延々とババ抜きをしていた。遊園地にいるクマは滑稽なほど愉快なものだが、夢にまで出てくるとなると話は別だ。正直に言おう。大変怖い。バイト帰りはいつも夜遅く。今日は、良い夢見れますように。そう切実に願っていたが、前方の電柱にオレンジ色の影が見えた。電灯に照らし出されたのはふさふさとした毛にちょこんと二つついた耳。嫌な予感がした。予感的中。着ぐるみのクマがこちらをじっと見つめているのだ。「なっ、何でこんなところに」という疑問はさておいて、とにかく今は逃げるべし。どうしてかというと、クマに恐怖したからだ。
 久しぶりに全力疾走したので、息が辛い。家の扉を開けて安堵していると、「よお、待ってたぞ」とクマがいた。ある日クマさんに出会ってびっくりとはこのこと。しかも自分の家で自分よりも先にいるなんて。「なっ、何で!」と狼狽する俺にクマはあっさりと、「何でって、待ってたからに決まってんだろ」と答えてから、石像と化した俺をずるずると引きずっていった。
「一人暮らしなんだろ。賞味期限は気にしろよ」と器用にグラスにジュースを注いで俺の前に置いた。考えがまとまらない。どうして着ぐるみのクマと向かい合わせに座っているんだ? そんな俺を見て、「おまえの疑問を解決してやる。俺は復讐しにきたんだ」と告げるクマ。「分かってないようだな。おまえ、この前バイトで倉庫整理してただろ。その時俺のこと蹴ったよな?」と指摘されると確かあれは一週間前。着ぐるみのクマの顔がやたらと笑っていたので、思わず蹴ってしまったのだ。大学の授業の単位を落としたこともあって、とにかく腹が立っていた。納得した俺の顔を見て、「おまえは大変ゆゆしきことをした。俺はそこらのクマとは違う。俺はおまえの夢の中にまで登場するという嫌がらせを繰り返し、そして今日だ」
「いや、ちょっと待て。まだ復讐する気なのか? 蹴ったことは謝る。ごめんなさい」と成り行きで土下座してしまう。クマは笑って(表情が読めないのだが)「許してやるさ。今日で復讐は完遂した。これからは仲良くしようぜ。一緒に暮らすわけだし」
「はい?」と聞き返す俺に、クマはしれっと「俺、何かだいぶ古くなってきたから捨てられる寸前だったんだ。ということで、しばらく厄介になるから」
「って、復讐は名ばかりで、まさかただ厄介になろうとしてたんじゃあ」という俺に、「気にすんな。考え方の違いだ」と言ってくるクマ。
「帰れ!即刻帰れ!」と俺はクマに掴みかかった。

'06年11月「この三日間…」
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ハッピーバースデー

Kasaku2_4 西脇 恵理佳さん 21歳
(神戸女学院大文学部3年)


■11月の書き出し

 この三日間、夢を見た。どうやら続きものの夢らしい。いったい何を意味しているのか?

 一日目。
 自称ヒッキーの俺の部屋に、珍客がやってきた。
 「おかしちょーだーい♪」
 「おーかしっ♪おーかしっ♪」
 「おかしくれなきゃコーロース♪」
 ちょっと待て、ハロウィンならとっくに終わったぞ。
 しかも、菓子をやらなきゃ殺すなんて設定じゃなかった気が…。
 とにかく、このいたいけな子供の顔をした化け物共を追い出すため、俺は必殺技である「狸寝入り」で無視を決め込んだのだった。
 二日目。
 「よくぞ奴らを追い払ってくれました!」
 なぜか昨日のガキ共は去っていて、代わりに赤服に白髭を蓄えたじいさんが俺の部屋にやってきた。
 ちょっと待て、クリスマスならまだだぞ。
 「奴らに菓子を与えなかった良い子はあなたが初めてです。褒美にあなたの欲しいものをプレゼント致しましょう。何なりと言って下され!」
 …騙されちゃダメだ。菓子を与えないのが良い子の行いとは思えない。
 奴は慈善者のふりをした死神だ。
 布袋の中はこれまで刈り取った生首でいっぱいに違いない。
 そう思い、またもや俺は必殺「狸寝入り」を発動させた。
 一つだけ、欲しいものがあったけど。
 三日目。
「兄さん。」
 嘘だろ…?
 それは、1年前に死んだ弟の声だった。
 そういえば、今日はあいつの誕生日だ。
 ハロウィンとクリスマスの間の、微妙な季節の。
 思わず俺は、必殺技を繰り出すことができなくなっていた。
 俺は夢中で目の前の弟に手を伸ばす。
 しかしその直前で二日前のガキ共が俺の前に立ちふさがり、見事に邪魔をしてくれた。
 勢いよく転倒する俺。
 弟が小さく苦笑するのが、ほんの少し見えた。
 夢は、そこで終わった。
 「ハッピーバースデー…」
 俺は、届かなかったメッセージを、そっと呟いた。

'06年11月「この三日間…」
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夢売り

Nyusen2吉川 摩耶さん 23歳
(京都大薬学部4年)


■11月の書き出し

 この三日間、夢を見た。どうやら続きものの夢らしい。いったい何を意味しているのか?
 
一日目、私は山を登っていた。夢だから疲れは感じない。雲を下に眺めて、漠然とここは富士山だと思った。二日目、富士山の頂上にたどり着いたが、突然鷹(たか)に襲われて慌てて逃げ出した。三日目、鷹の追撃から何とか逃れほっとしたのもつかの間だった。今度は山頂のほうから、巨大な茄子(なす)が運動会の大玉転がしのごとく転がってくるではないか。またも私は逃げ出した。
 こんな夢ばかり見るので、最近は睡眠をとった気がしない。学校に行ったらあまりにひどい顔だったのだろう、友達がどうしたのかと聞いてきた。夢のせいで寝不足なんてつまらない理由だが、一応話してみた。案の定、一富士二鷹三なすびだなんて笑われた。それは初夢の話だ。こんな疲れる夢、嬉(うれ)しくもなんとも無い。今夜もあの夢の続きを見たらと思うとうんざりだ。
 だが、その夜見た夢は違っていた。見知らぬ人物が私の部屋に現れた。その人は今晩はと挨拶(あいさつ)した。
「誰?」
「夢売りと申します」
 そんな紹介されてもよく分からないのだが。不審そうな顔をしていた私に、夢売りはさらに言葉を続けた。
「あなたの見た夢を、買い取らせていただきたいと思いまして」
 夢売りは、買った夢を売り歩くのが仕事だと話した。
「新年の初夢に向けて、いい夢を集めているんですがね。最近は、いい夢を見る方が少なくなってしまいまして、なかなか集まらないんですよ」
「夢なんて、売り買いできるの?」
「昔からよくある取引ですよ」
 そう言って、その人は昔話をしてくれた。他人の見た夢を吉兆に違いない、と言って買った人が大金持ちになった話。じゃあ、夢を売った人は損したのではないかと尋ねたら、夢売りは笑った。
「売った方は夢よりも現実的な利益がよかったのでしょう。夢を吉兆だと信じる人なら、売ったりしません」
 要は必要な人に必要なものを、ということらしい。
「あなたも昨日までの夢は必要とされていないようだ。取引なさいますか?」
 あんな夢を欲しがる人がいるか疑問だったが、リサイクル気分で私はOKした。お代はすぐに、と言って夢売りは消えた。私が売った夢は誰が買うのだろう。そんなことを思いながら、私は窓の外を見ていてハッとした。虹が見えた。虹は幸せの予兆だと言う話を思い出した。これが夢の代価。夜の闇に浮かんだ虹は、橋のようだった。その上で夢売りが手を振った。きっとあの夢は、幸せの必要な人に届くだろう。
 朝起きると、昨夜見た夢を思い出せなかった。何だかいい夢を見た気がしたけれど。とにかく、久々に爽(さわ)やかな目覚めだった。

[2006年11月20日掲載]

Alicekara_1
 三日間の夢に誰もが知る連続性があり、四日目の夢で意外な展開があって、ぐいぐいと読ませます。「爽やかな目覚め」で終わっていますが、最後に「もうひと不思議」あれば私はさらに喜んだでしょう。

'06年11月「この三日間…」
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記憶に浮かぶ箱庭

Nyusen2米田 健一さん 19歳
(高知工科大学1年)


■11月の書き出し

 この三日間、夢を見た。どうやら続きものの夢らしい。いったい何を意味しているのか?
 
夢の内容は至って単純だ。夢の中で俺は小さな部屋にいる。なぜか俺は手足ひとつ、眼すら動かせず、明かりの消えた蛍光灯を見ているしかない。
 ただそれだけの、非常につまらない夢。だが、それは徐々に鮮明になってきて、昨日は天井のシミが見分けられるほどになっていた。
「――そりゃお前、あれだ。現実の悩みとか、欲求不満とかが夢に現れてるんじゃないか?」
 学校で夢の話を友人にすると、何やらもっともらしい理屈を付けてきた。
「……でも、狭い部屋でずっと寝っころがってる夢が何の欲求不満を表してるんだ?」
「うーん……わかんね」
 まるで役に立たない。自分でも授業そっちのけで考えてみたが、結局寝る時間になってしまった。
 ……やはり今日も例の夢だ。ところが、今日はどこからかドアの開く音が響き、何者かが入ってきた。
 その人物はなぜか俺とは目を合わそうとはせずに、俺の体を物のように扱い始めた。
 やめろ、と言おうとしたが声が出ない。そして、そいつが戻っていくと同時に俺も夢から引き戻された。
 ……次の日は一日中夢の意味を考えていた。だが、帰る途中おかしなことに気付いた。普段はほとんど通らない商店街に――誰も、いない。
 不安になって今来た大通りの方を振り返ったが、ちゃんと車も人も通っている。いつも寄り道するコンビニも変わりない。
 何が起こったんだ? 俺は思わず天を仰いだ。
「……あ……れ?」
 仰いだ空の中空部分、見上げなければ見えない頭上の空だけが、ぽっかりと白かった。地平線の近くはちゃんと雲も流れる青空なのに、そこだけうっかり描き忘れたとでも言うかのように、真っ白。
「……どうなってんだよ!」
 わからない。わからないが、恐らくその答えはあの夢にあるに違いない。俺は全速力で部屋まで戻り、ベッドに潜り込んだ。眠るまでは時間が掛かった。
 ……夢の中は夜だった。動かない体に思いっきり力を込めると、鈍痛を感じながらも動いた。
 そのとき、俺は鼻や腕、体のあちこちにチューブがつながっていることに気付いた。周りを見渡すと、月明かりに浮かぶ白で統一された殺風景な部屋。
 ふと隣を見ると、小さな置き鏡に見知らぬ男の顔が写――いや、くたびれてはいるが自分の顔だ。
 壁にはカレンダーが掛かっている。だが、年の部分の十と一の位が俺の記憶と食い違っている。
 ――ああ、そうか。
 どうやら俺は、ながい、永い夢を見ていたようだ。

[2006年11月13日掲載]

Alicekara_1
 なるほど、夢と現実が逆転していたわけですね。そんなアイディアもさることながら、「仰いだ空」の絵画のようなシーンにひかれました。視覚的なイメージだけでなく、触覚的な描写もよく利いています。

'06年11月「この三日間…」
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ゆめまもり

Nyusen2觜本 あかねさん 20歳
(関西学院大文学部1年)


■11月の書き出し

 この三日間、夢を見た。どうやら続きものの夢らしい。いったい何を意味しているのか? 私は夢の謎を解くべく、夢守(ゆめもり)がおわす村外れの小屋に向かった。小屋の戸には目通りが叶(かな)う印である榊(さかき)の枝が挿してあった。戸を開けると、中に立ちこめる煙が鼻をついた。
「守殿。お久しゅうございます」
「……よう来たの。そこに座れ」
 囲炉裏を挟んで夢守と向き合って座った。煙の向こうに、皺(しわ)だらけの老女がいる。この小柄な老女は不思議な夢を見たと言えば夢の意味を解き明かしてくれるし、悪夢を見た者には夢違えのまじないをする。そうして人の夢を守っており、故に夢守と呼ばれる。守と二人きりで向き合ったことのない私は、緊張していた。
「十五年ぶり、かの」
「はい。昔一度ここへ参りました時、私はまだ乳飲み子だったと聞きますれば。今日は夢解きを……」
 用件を伝えんとすると、守が手を挙げて私を制した。
「お前はこの三日間、続けて夢を見たのだろう?」
 私がうなずくより先に、守は言葉を続けた。
「一夜目、お前は少女だった。まだ自らの運命も知らずに野を駆け回っていた。二夜目、お前は成女になり、前の晩に見た夢を解くため、村外れの小屋に向かった――今のお前と同じように。三夜目、お前は囲炉裏の煙の向こうに見知らぬ老女を見た。しかし夢の中のお前はそれが夢守だと知っていた。そうじゃな?」
 守には特別な力がある。私の夢を知っていてもおかしくないのかもしれない。しかし何故……。
 私の心を見透かしたように、守が呟(つぶや)いた。
「私も昔、それと同じ夢を見たのだよ。そして、今お前に語ったのとそっくり同じ話を聞かされた。――これは、次の夢守となる者が見る夢なのだ」
「そんな、いきなり言われましても……」
「お前の戸惑いはわかる。私もそうだったのだから。しかし考えてくれ。不思議な夢が意味を持つ、不吉な夢の不安が和らぐ、それだけのことで人の心はどれだけ救われることだろう! ……夢守は確かに必要なのだよ。お前は物心ついてから、ここへ来たことが一度もない。それはお前に夢を司(つかさど)り守る力があるからだ」
 そこで守は、初めてにっこりと笑んだ。
「さあ、今から大切なことを言う。夢の中と思って聞き逃すでないよ」
 今、何と……夢の中? 守は静かな声で語った。
「明朝目覚めたらすぐ、ここへ来い。その頃には私は事切れておろう。――これは、私が夢守として最期の力を使ってお前に見せている夢だ。しかし、いいかい。夢と思って忘れるでないよ」
 ――そこで私は目が覚めた。鼻の奥には煙の匂(にお)いが残っている。私が本当に、夢守になれるのだろうか?
 言われた通りに小屋へ向かう。夢の通り、戸には榊の枝が挿してある。――わたしはそっと戸を開いた。

[2006年11月6日掲載]

Alicekara_1
 まるで長編伝奇小説の冒頭のようですね。この後に続く波乱万丈の物語を読んでみたくなりました。それでいて、まとまりのよい掌編にもなっています。「夢の中と思って聞き逃すでないよ」にやられました。

'06年11月「この三日間…」
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